『人生の経営戦略』
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【毎日書評】人生も経営も戦略がすべて! ベンチマーク思考で成長する3ステップ
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
『人生の経営戦略』(山口 周 著、ダイヤモンド社)の目的は、経営戦略をはじめとした経営学のさまざまな知見を、個人の「人生というプロジェクト」に活用するためのガイドを提供することなのだそうです。
それは、外部の支援者という立場から「状況を抽象化し、戦略を具現化する」という活動を続けてきた著者が、キャリアを振り返ってみたことに端を発するようです。その結果、重要なことを実感したのだというのです。
それはなにか?
これまでの人生のなかでもっとも深くコミットし、熟考し続けてきたのは、ほかならぬ自分自身の「人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の考察だったということ。
クライアントを支援するために有用だった経営戦略論をはじめ、マーケティング、財務、オペレーション、組織行動論など、経営学全般のコンセプトやフレームワークが、個々人の「ライフ・マネジメント・ストラテジー」を策定し、実行していくにあたっても重要な意味を持つことを実感したというわけです。
私が本書において提案したいと思っているのは、これらのコンセプトやフレームワークを、読者である皆さんの「人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジー」の策定・実践に活用する、ということです。(「はじめに」より)
もしかしたら、人生と経営を結びつけるという発想に戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。しかしマネジメントには、「思い通りにならないものを、とにかくなんとかする」という意味もあるはず。そういう意味では、決して突飛な発想ではないわけです。
きょうは第5章「学習と成長について」のなかから、「ベンチマーキング 行き詰まったら素直に真似てみる」をクローズアップしてみたいと思います。
いうまでもなくベンチマーキングとは、組織や個人が他者の成功事例やパフォーマンスを基準に、自らのプロセスや成果を比較・評価し、改善策を導き出す経営手法。それは、「自分のなにを変えたらいいのかわからない」という局面で役立つというのです。
「学ぶ」は「真似る」
ベンチマーキングは、単なる模倣ではなく、他者から学び、それを自分の状況に応じて最適化する一種の「学習プロセス」として捉えられます。
この「学ぶ姿勢」が、ビジネス戦略の一環として重要視されるようになったことは、アメリカのビジネス文化にとって大きな変化でした。
1980年代のアメリカでは、他国や他社から学ぶことが「劣等感」ではなく、優れた手法を取り入れることが成長のために必要な手段」であるという認識が広がったのです。(293〜294ページより)
この考え方は、日本語の「学ぶ」ということばの語源にもつながるもの。「学ぶ」の語源は古語の「マナ=真似」であり、つまりは「真似る」という意味なのです。「模倣」が新たなオリジナルを生み出すための出発点になりうることは多くの方が知るところですが、昔の人もそれを経験的に理解していたわけです。(293ページより)
ベンチマークを人生において実践する3ステップ
だとすれば気になるのは、人生の経営戦略=ライフ・マネジメント・ストラテジーにおいて、ベンチマークを実践していくためにはどうすればいいのかということ。そこで著者は、そのために重要な3ステップを明らかにしています。
1. 課題認識を持つ
ベンチマークを行うためには、自分の課題を特定することが必要。その際、課題のポイントの具体性が明らかになればなるほど、ベンチマークの対象を選択する力も上がるからです。したがって第一歩は、“自分のどこに問題があるのか”を把握することになるわけです。
2. ベンチマーク対象を選出する
課題を特定したら次にするべきは、その課題を解消するためのベンチマーク対象を選出すること。その際に重要なのは、「能力」ではなく「行動」と「時間配分」に着眼するということ。
なぜなら「能力」は簡単に真似できませんが、「行動」や「時間配分」はすぐに真似ることができるから。そして多くの場合、問題を解決する鍵は「時間配分」にあるのだといいます。
著者もコンサルティングのプロジェクトにおいて、幾度となくベンチマーキングのプロジェクトを行ってきたといいますが、ほぼすべてのケースで「時間配分」は結果を左右する重要な要素となっていたそうです。
3. とりあえず真似てみる
ベンチマークによって得られた具体的な示唆や学びは、まず素直に実践してみるべきだと著者は述べています。「素直さ」は見過ごされてしまいがちなことかもしれませんが、とくにベンチマークの実践においては重要なポイントとなりうるというのです。
これまで長らく人材育成・経営者育成に関わってきた立場から、「伸びる人」に共通する特徴は「素直さ」だと思っています。逆に言えば、伸びない人、現場の「お山の大将」で終わってしまう人の特徴は「頑固」ということです。自分のこれまでのやり方に拘泥して、なかなか新しいやり方・考え方を受け入れようとしなければ、成長はそこで止まってしまいます。(299〜300ページより)
当然のことながら、意識が変わらなければ、行動が変わることはありません。行動が変わらなければ、結果も変わらず、人生が変わることもないでしょう。しかし私たちの脳は保守的にできているため、実際のところ「意識を変える」のは難しくもあります。
だからこそ、「意識の保守性」を乗り越えるためには、まず「行動を変える」ことから試してみるべき。その結果、行動が適切に変われば、結果も変わるわけです。そして結果が変わることで、最終的に「意識が変わる」ことを目指す。それこそが、ベンチマークのアプローチだということです。(296ページより)
経営学の基本的な概念や理論を解説し、それらを「人生の経営戦略」にどう適用するかを、具体例を交えながら説明したユニークな書籍。自分の人生をよりよい方向に導いていくために、活用してみてはいかがでしょうか。
Source: ダイヤモンド社