『明代龍泉窯青磁の研究』柴田圭子著

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明代龍泉窯青磁の研究

『明代龍泉窯青磁の研究』

著者
柴田 圭子 [著]
出版社
吉川弘文館
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784642081559
発売日
2024/12/23
価格
16,500円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『明代龍泉窯青磁の研究』柴田圭子著

[レビュアー] 岡美穂子(歴史学者・東京大准教授)

沖縄での発掘品 詳細分析

 「モノ」から見た戦国日本の対外交流に魅せられている。長崎や豊後府内などの貿易で栄えた都市から出土する多様な遺物が語る歴史は、文献資料からだけでは分からない、あるいは文献資料による定説を覆す発見もある。

 歴史的な「モノ」を扱うのは主に考古学者だ。彼等(ら)の目と経験による知識は、それだけを追究してきた、良い意味での「オタク」の厳しい基準に依拠しており、文献解釈の方がまだ揺らぎや遊びの部分があるように感じる。考古学の世界では、炎天下であろうと延々と土を掘り続ける肉体労働が基本であるから、基本的には男性が圧倒的に多く、女性の考古学者は極めて少ない。本書の著者は女性の考古学者として、愛媛県の埋蔵文化財センターで瀬戸内海の島々で発掘される貿易陶磁などを分析してきた。

 瀬戸内海は大陸から運ばれてくる品々が九州から上方へと運ばれる主要なルートであり、国内を移動する輸送船の寄港地となった島々には、大陸との通交の痕跡が残る。著者は業務とは別に自身の関心から、元代から明代にかけて生産された中国青磁の研究をおこなっている。「青磁」といえば優美で繊細な高麗青磁を思い浮かべる人も多いだろうが、その技術もまた中国から伝来したものである。日本列島では東アジアの海上を移動した青磁が多く発掘されているが、とりわけ多いのが、かつて琉球王国として栄華を誇った沖縄県である。世界遺産でもある首里城や今帰仁城など、琉球王国の政治の中心地で多く見つかるという事実は、海外との通交が盛んな琉球にあっても、中国青磁は為政者たちに好まれる高級品であったことを意味する。

 本書は主に沖縄県で見つかる浙江省南西部の龍泉窯で制作された青磁を網羅的に分析し、これまで不明瞭であった時代ごとの特徴を明確にする。龍泉窯青磁は華人の船で運ばれ、アジア各地で出土・伝世するが、これまでここまで詳細な編年整理は試みられたことが無く、中国でも注目度の高い、国際的価値を持つ研究の集成といえよう。(吉川弘文館、1万6500円)

読売新聞
2025年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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