『ガザの光 炎の中から届く声』リフアト・アルアライールほか著/ジハード・アブーサリームほか監修/『物語ることの反撃 パレスチナ・ガザ作品集』リフアト・アルアライール編

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物語ることの反撃

『物語ることの反撃』

著者
リフアト・アルアライール [編集]/藤井 光 [訳]/岡 真理 [監修]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784309209111
発売日
2024/12/03
価格
2,992円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ガザの光 炎の中から届く声』リフアト・アルアライールほか著/ジハード・アブーサリームほか監修/『物語ることの反撃 パレスチナ・ガザ作品集』リフアト・アルアライール編

[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)

心壊す占領 抵抗の物語

 この2冊は合わせて読まれるべきだと強く思う。ガザで何が起きているのか、そしてそれに対してパレスチナ人がいかに抵抗しているのか。そのことに深く心を撃たれるはずだし、より広く、戦争とは何か、戦争の中で平和を求めるとはどういうことなのかという普遍的できわめて切実なテーマを考えさせられる。

 1冊目『ガザの光』では、イスラエルによるパレスチナ人への攻撃が、単なる物理的な攻撃にとどまらず、文化を破壊し、心そのものを壊滅させるものであることがジャーナリスティックな文章で描かれている。たとえば、イスラエルは占領政策の一環として、オリーブなどの地域の伝統的な樹木を絶やそうとし、代わりに松などのヨーロッパ産の樹木を植えてきた。それはパレスチナ人の暮らしを壊し、心の風景を破壊することに他ならない。本書には移動の自由が奪われ、頻繁な停電に見舞われ、本が検閲されるなど、さまざまな形でパレスチナ人の心の力が壊されてきたことが描かれている。斎藤ラミスまや訳。

 その最たるものが物語である。パレスチナ人の物語が消し去られ、忘れられる。すると、パレスチナ人の受けている攻撃は忘れられ、占領は維持され、激化する。だからこそ、物語ることをやめないことが抵抗になる。

 これが、2冊目『物語ることの反撃』の編者リフアト・アルアライールの思想である(彼は『ガザの光』にも感動的で、悲壮な文章を寄せている)。本書にはリフアト本人と、彼が物語るやり方を教えた生徒たちによる小説23編が集められている。パレスチナ人から見える風景が描かれ、パレスチナ人が生きている世界が物語られるのだ。岡真理監修・解説、藤井光訳。

 爆弾に対して小説で抵抗する。暴力に物語で対抗しようとする。だからこそ、この物語る力は恐れられる。実際、リフアトは2023年12月に殺害され、この2冊が残された。(明石書店、2970円/河出書房新社、2992円)

読売新聞
2025年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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