『リアル・メイキング』
- 著者
- ターニャ・M・ラーマン [著]/柳澤田実 [訳]
- 出版社
- 慶應義塾大学出版会
- ジャンル
- 社会科学/社会
- ISBN
- 9784766429770
- 発売日
- 2024/11/26
- 価格
- 3,520円(税込)
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『リアル・メイキング』ターニャ・M・ラーマン著
[レビュアー] 奥野克巳(人類学者・立教大教授)
一九九〇年代の二年間、ボルネオ島奥地で調査を行った。夜な夜な活動すると聞く邪霊と邪術師に怯(おび)え、夜中に独りで用足しに行けなくなった。その時、目に見えない存在をリアルなものとして感じ始めていた。
著者は、目に見えない神や霊がいかに現実的な存在になるのかを、米国の福音派キリスト教徒を始め、サンテリア信者、英国の魔術の信者、インドのゾロアスター教徒などの調査に基づいて探究している。本書は、他者の行動を真剣に受け取る「存在論」的人類学の流れに与(くみ)しつつ、それを進めて存在の生成を問う。
信仰の枠組みが与えられた個人は、神や霊の詳細が語られる物語に親しみ、想像することに没入し、見えない他者の臨在を経験するようになる。祈ることで自身の意識に向き合い、神や霊との関係を構築する。
今日、仮想現実の技術開発などにより、人工的な現実が現実の一部として存在し始めている。本書は、目に見えない他者が実在するようになり、どのように人の中に住みつくようになるのかを考察するための示唆に満ちている。柳澤田実訳。(慶応義塾大学出版会、3520円)