『「人は右、車は左」 往来の日本史』近江俊秀著

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「人は右、車は左」往来の日本史

『「人は右、車は左」往来の日本史』

著者
近江俊秀 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784022631374
発売日
2024/12/10
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『「人は右、車は左」 往来の日本史』近江俊秀著

[レビュアー] 岡本隆司(歴史学者・早稲田大教授)

 建築・鉄道など、社会インフラの歴史に対する関心が高まっている。そんな潮流に棹(さお)さす一冊。

 大きな事故はニュースになっても、あたりまえな往来は記事に残りづらい。けれども筆マメな日本史だから、急速な発展を遂げた交通設備と、それにともなうマナー・ルールの遍歴がわかる。

 日常生活に不可欠な「往来」だけに、その秩序化には権力・体制のみならず、人々の通念・風習・信仰が深く関わっていた。動く歩行者・乗り物の通行・変遷から、載せる道路の縁起・興廃・整備・管理まで、時代を通じて縦横に論ずる。史跡・史料に即して噛(か)み砕いた説明に納得しきり。

 すべての道はローマに通ず、という。ヒトに必要な基本インフラに、古今東西さしたる差違はない。しかし現象形態はさまざま、「人は右、車は左」の道路交通法に行きついた日本と異なり、「車は右」がむしろ世界(グローバル)標準(スタンダード)である。

 本書で「往来」史のリテラシーを身につければ、視座が定まって、海外との比較も可能だ。世界の実情を見るためにも、まずは自国をよく知っておきたい。(朝日選書、1980円)

読売新聞
2025年2月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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