<書評>『東京裏返し 都心・再開発編』吉見俊哉 著

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東京裏返し 都心・再開発編

『東京裏返し 都心・再開発編』

著者
吉見 俊哉 [著]
出版社
集英社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784087213430
発売日
2024/12/17
価格
1,188円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『東京裏返し 都心・再開発編』吉見俊哉 著

◆歴史の断片 あちこちに

 東京の川筋や台地に注目しながら、町を歩くと「歴史的地層」が見えてくる。

 前著『東京裏返し 社会学的街歩きガイド』(2020年)は、「都心北部」の上野や秋葉原などの町に積み重なる時間を眺め、これからの東京のあり方を思索してきた。

 その続編の「都心・再開発編」は「都心南部」の新宿や渋谷などの水辺を散策し、町のあちこちに散らばる歴史の断片をかき集めていく。

 著者は街歩きをするさい、「狭い道」「曲がった道」「上り下りのある道」を選ぶことが鉄則だという。有名な古道や歴史の道でなくても、町中のそうした道を「裏返す」と東京の見え方が大きく変わる。

 東京の西から東へ流れる川は複雑な地形を生み出してきた。川筋や谷筋の土地には古来、人が行き来してきた路地があり、昔ながらの街並みも残る。

 「東京裏返し」シリーズは東京をどの角度からどう見るかということにくわえ、「低速」の大切さを繰り返し主張する。交通網の整備され、効率よく目的地に達することができる都心を、歩く速度でゆっくり見直すことも「裏返し」散歩の鍵である。

 また戦前、軍都だったころの町の痕跡を探すことも本書の街歩きのテーマのひとつ。「第六日 青山・六本木・赤坂の川筋から見る軍都東京」の章は、東京の近現代史を地形を通して再検討する。

 戦前の「都心南部」は旧日本軍の施設が数多くあった。台地には軍部、かつては川で現在は窪地(くぼち)のところに遊興地ができた。敗戦後、軍の施設は米軍に接収され、さらに高度成長期に入ると、かつての軍用地はスポーツ施設になった。

 この地域の川筋の坂道を歩くと何が見えてくるのか。

 都内の暗渠(あんきょ)や昔の灌漑(かんがい)用水の跡など、見過ごしてしまいそうな水辺にも町の人々の生活史が刻み込まれている。一方、再開発により、それらの風景は消えつつもある。

 7日間にわたる「裏返し」の旅は、加速し続ける世の中から離脱し、東京の悠久の時間を浮かび上がらせる。

(集英社新書・1188円)

1957年生まれ。国学院大教授、東京大名誉教授。社会学、都市論。

◆もう一冊

『大軍都東京 忘れられた日本の戦争遺跡を訪ねる』黒田涼著(笠間書院)

中日新聞 東京新聞
2025年2月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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