『マイブック』
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「白い文庫本」が緊急増刷 ブームの背景は「日記界隈」!?
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
1999年に初めて刊行され、手帳や日記として使うことのできる本の先駆けとなった新潮文庫『マイブック』。1日1ページ、365日ぶんの日付と曜日だけが書かれた「白い文庫本」という斬新なコンセプトは熱いファンを生み出し、累計280万部を超えるロングセラーとなった。
「商品としては定番化していて、ここ十数年は毎年同じくらいの売れ行きだったのですが、ここ数年で若い読者が急激に増えたんです」(新潮社の営業担当者)
とりわけ昨年9月末に発売した今年の『マイブック』は緊急増刷を重ねながら18年ぶりに10万部を突破し、現在11万部。購買者のうち、15~24歳が全体の約25%を占めるという。異例のブームの背景にあるのは「日記界隈」というキーワードとZ世代のライフスタイルだ。
日記界隈とは、端的にいえば日記を書く人びとのことを指す言葉だが、そもそもZ世代とそれより上の世代では“日記”に対するスタンスが異なっている。
「従来の日記というのは、他人に見せないことを前提とする、どちらかというと自己完結に近いものだったと思うのですが、ネットネイティブの若い世代にとっての日記は、日々の記録をSNS上で共有するスタイルが主流なんですよね。つまり“見られる”ことで生まれる連帯感や共感がベースにある。そこで新潮文庫のスピンやぶどうのマークもひとつのアイコンになるんじゃないかと」(同)
興味深いのは、他の日記帳や手帳のような商品と異なり、年が明けてひと月経っても売れ続けている点だ(本年度版は昨年1月下旬比350%)。ちなみに現在“マイブック”でネット検索すると“どこにある”“どこで買える”というサジェストが上位に出てくる。『マイブック』はあくまで書籍扱いのため、ネット販売を除けば基本的には文具店などでは取り扱っておらず書店でしか買えない。
「いまの時代は“書店に行く”という体験も価値につなげられたらいいのかな、と。背伸びの延長でいいので、いろんな本が収まった文庫棚を実際に眺めながら手に取ってみてもらえたら嬉しいです」(同)