『メイド・イン・オキュパイド・ジャパン』
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“進駐軍専用”はハバをきかせていた
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
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今回のテーマは「占領」です。
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つい忘れがちになるが日本は終戦から昭和二十七年に講和条約発効によって独立するまで実質的にアメリカによって占領されていた、オキュパイド・ジャパン。
昭和十年生まれの歌手・俳優の小坂一也はその占領時代に少年期を送った。
『メイド・イン・オキュパイド・ジャパン』で自分は占領時代の申し子という。
「日本国中いたるところに、“進駐軍専用”はハバをきかせていた」時代。
昭和十九年生まれの筆者もかろうじてこの時代は記憶にある。中央線の電車の一両は米軍専用車で日本人は立入禁止だった。いい気持はしなかった。
そんな時代に小坂少年はアメリカが好きになる。占領下の日本には進駐軍経由で豊かなアメリカ文化があふれるようになった。
チョコレート、ラッキーストライク、ジーパン。あるいはフォードをはじめ数々の自動車。映画と音楽。
ついこのあいだまで敵だったアメリカの文化に小坂少年は目を輝かせる。気のいいGIとカタコトの英語で交渉し、チョコレートを買ったりする。すっかり「アメリカかぶれ」になる。
高校時代には友人たちとウェスタン・バンドを組んで立川や福生の米軍基地のクラブや基地周辺のキャバレーに演奏しにゆく。学校より演奏のほうが大事になり、ついにプロの歌手に。
「思えば私の少年期には、苦労らしい苦労などひとつもなかったと言っていいだろう」。暗い占領時代をこんなに楽しく過したのはこの世代の特権か。