『課税と脱税の経済史』
- 著者
- マイケル・キーン [著]/ジョエル・スレムロッド [著]/中島由華 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 社会科学/経済・財政・統計
- ISBN
- 9784622097556
- 発売日
- 2025/01/20
- 価格
- 4,950円(税込)
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<書評>『課税と脱税の経済史 古今の(悪)知恵で学ぶ租税理論』マイケル・キーン、ジョエル・スレムロッド 著
◆「強制」への反発 逸話満載
本書は課税をめぐる数々のエピソード満載の楽しい読み物である。
古代から現代まで似たような課税が形を変えて何度も登場している。14世紀イギリスのワット・タイラーの乱は、いわゆる人頭税に対する反発から起こったとされるが、20世紀末のイギリスで歴史に学ばなかったサッチャー保守党政権は同じ過ちを犯し、国民の支持を失っていった。
また、19世紀イギリスでは、政府がメディアを弾圧するために新聞税が導入されたが、言論の自由が認められた20世紀アメリカでは、ヒューイ・ロング(ルイジアナ州知事)が導入しようとした広告売り上げへの課税が最高裁判所で違憲とされた。
本書はこのような例を「愚行」として紹介している。愚行の反対は「叡智(えいち)」というべきだが、今日では、環境破壊に対して税金を課すことは多くの先進国で広く認められている(いわゆる「ピグー税」)。
日本人の関心を引くのは、17世紀の島原の乱が取り上げられているところだろう。島原を治めていた松倉氏が重税を取り立てようとして反発を招き、キリシタン信仰とも結びついて幕閣が驚愕(きょうがく)するほどの勢力となった。もちろん、20万もの幕府軍によって乱は平定され、松倉氏の当主は打ち首になったが、宗教と税が複雑に絡みあうのが西欧だけではないのがよくわかる。
興味深いエピソードには事欠かないが、それでも、本書は課税問題の主要な論点(公平性、帰着分析、効率性と最適な課税、税務管理、実際の政策形成)をほぼ網羅している。
課税問題の歴史から何らかの教訓を引き出すには、現代の私たちが財政の本質(昔よく使われた一橋大学の財政学者、井藤半彌(はんや)の言葉では、財政とは「強制獲得経済」に他ならないということ)をつねに意識している必要があるように思われる。その点、本書にもさりげなくトマス・ペインの同趣旨の言葉(「強奪」の穏便な表現が「徴税」だということ)が紹介されているのはさすがというべきだ。
(中島由華訳、みすず書房・4950円)
キーン 元国際通貨基金財政局次長。スレムロッド 米ミシガン大教授。
◆もう一冊
『税金の世界史』ドミニク・フリスビー著、中島由華訳(河出書房新社)