『友が、消えた』
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<書評>『友が、消えた』金城一紀(かねしろ・かずき) 著
[レビュアー] 青木千恵(フリーライター・書評家)
◆理不尽な世に抗い、進む
<友達がいなくなったんだ>──。相談を受けて、消えた学生の行方を追う。直木賞を受賞したベストセラー、『GO』の著者による、13年ぶりの新作小説である。
大学1年生の南方(みなかた)は11月のある日、同じ法学部の結城から声をかけられる。高校時代の親友で同じ大学に進んだ北澤と、突然連絡が取れなくなったという。すがるような眼差(まなざ)しを向けられて、南方は北澤を捜すことにする。
やんちゃな男子高校生たちを描いた<ザ・ゾンビーズ・シリーズ>に連なる長編小説だが、大学生になった南方をソロの主人公にした独立作である。仲間たちはいず、たった1人で結城の期待に応えられるのか? “本能”で動き出した南方は、北澤を捜すうちに世の中の暗部に分け入る。南方、結城、学内最大のサークルを仕切って崇拝される志田ら、若者を主要人物にしており、周りには「今の社会」が広がっている。
北澤を捜すプロセスを通して、真相と社会のありようが浮かび上がる、青春ハードボイルドのつくりだ。さながら“大学生探偵”の南方は、熱い高校時代を終えてどこか虚無感をたたえ、淡々と暮らしていた。目にするものや折々の心理、饒舌(じょうぜつ)な相手への密(ひそ)かなリアクションなどで織りなされる、独特の文体が鮮やかで、引き込まれる。
久しぶりの新作小説だが、著者の視座が保たれているので、『GO』と同じく個が世界と切り結ぶような、魅力的な作品である。ゼロ年代を舞台にしており、2025年の今も社会状況はあまり変わっていないのだなと思う。様子を見ているだけで、何もしなければ変わらない。初対面の結城から相談された南方は、さまざまな人々と向き合い、進路を選ぶ。どう生きるかは世代に依(よ)らない。理不尽なことに抗(あらが)い、少しずつでも世界を変えていこうとする人を励ます、大人の青春小説と言える。
<答えを迷っているうちにこの世界はゆっくりと確実に僕を殺していくだろう。動け>。仲間たちと離れ、南方が1人で歩き出す。優れた青春小説である。
(KADOKAWA・1760円)
1968年生まれ。作家。2008年、『映画篇』で本屋大賞5位。
◆もう一冊
『レヴォリューションNo.3』金城一紀著(角川文庫)。本文にあるシリーズの第1弾。