『失うことは永遠にない』
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【聞きたい。】福田果歩さん 『失うことは永遠にない』 子供時代の傷 誰にでもある
[文] 三保谷浩輝
福田果歩さん
「物語をつくる人になりたい」という夢をかなえた小説デビュー作。
「小学生のときから小説を書いては何度も挫折。10年ほど前に集大成のつもりで書いた作品を、時を経て出会った編集者の方の勧めで改稿し、伝えたいことをしっかり落とし込むことができた」
物語の主人公は東京で両親、兄と暮らす小学5年生の奈保子。父の不倫をきっかけに家庭が崩壊する中、大阪の父の実家に預けられた奈保子は同じ年のアサコと出会う。アサコと4人の兄弟が住むアパートの部屋に通ううち、貧しくも寄り添い、たくましく生きるアサコたちにひかれ、強い絆を感じるが…。
少女のひと夏の日々と、その後を描いた。
「家族は選択肢なく与えられる最初のコミュニティー。でも、みんながそこに居場所を得られるわけではなく、心は孤独という人もいて、そういう人を描いてみたかった」
親の仕事の関係で幼少期から国内外で転居を重ね、「家族にはいろいろな形がある。何が一番幸せなのか」と考えていた。転校で友達づきあいが続かず、「どこに行っても自分の居場所が手に入らない」という孤独感もあった。
「誰にも子供のときの傷のような出来事はある。大人になって向き合えば乗り越えられ、前に進めるはずで、この話もそのきっかけになれば。今、中学・高校生で苦しんでいる子にも、同じように悩んだ人がいるのだと知って、安心してもらえたらいいな」。書名には「思い描いた未来や夢はかなわなくても、願った世界や純粋な気持ちはずっと消えない。それを希望、お守りのように持ち続けてほしい」との思いを込めたという。
小説出版より数日早く、1月公開の映画「366日」で脚本家デビューも果たし、思い描いた未来を小説と脚本のダブルで手に入れた。
「エンドロールで脚本に自分の名前を見たら号泣すると思っていましたが、冷静でしたね(笑)。小説も脚本も運や人の縁に恵まれてデビューさせていただけた。出会いに感謝しながら、これからも書いていきたい」(小学館・1760円)
三保谷浩輝
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【プロフィル】福田果歩
ふくだ・かほ 小説家、脚本家。平成2年、東京都生まれ。日本大芸術学部映画学科脚本コース卒業後、映画会社などに勤務の傍ら、小説や脚本を執筆し、令和4年、脚本家の登竜門・城戸賞準入賞。映画「366日」のノベライズ小説も出版。