発見からわずか27年で絶滅した「ステラーカイギュウ」の悲劇…最先端技術で「絶滅種の復活」はどこまで可能なのか、スリリングな過程も
レビュー
- 新潮社 週刊新潮
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- (生物・バイオテクノロジー)
『おしゃべりな絶滅動物たち』
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ステラーカイギュウの悲劇から人と自然との共生に思いをはせる
[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)
人による狩猟や環境の改変によって、生き物の種がこの世界から消え去る――。そんな人為による「近代の絶滅」の物語は、私たちの生きる“いま”にどんな問いを投げかけているのだろうか。
17世紀に絶滅したドードー、18世紀に発見されてからわずか27年で絶滅したステラーカイギュウ、そして、数十億羽もの個体数がありながら、数十年の狩猟によって姿を消したリョコウバト……。本書は近代から現代に至る動物たちの「絶滅の物語」を紡ぎながら、人と自然との共生の意味を問い直した一冊である。
何より惹きつけられたのは、著者が地に足をつけた丁寧な調査によって、多角的な視点を常に提供していこうとすることだ。絶滅動物のかつての生息地への取材、貴重な標本の観察、学術論文や近年の新たな研究成果、そして、研究者たちへのインタビュー。著者はそれらをくまなく見渡しながら、過去に消え去った動物たちの姿をできる限り再現し、彼らが生きていた環境と絶滅の背景を丹念に描いていく。
また、近代における絶滅の歴史を繙いた上で、現在のテクノロジーの進歩がもたらす「脱絶滅」の試みにも分け入っていく過程がスリリングだった。ゲノム編集技術や生殖補助技術などを用いた絶滅種の“復活”は、果たしてどこまで可能なのか。生物工学的な技術を使った手法の最先端を見つめつつ、「種とは何か」「生命とは何か」という根源的なテーマへとたどり着いていく論考に深く考えさせるものがあった。
絶滅を引き起こすと同時に、種の喪失を嘆き、今ではその復活を願う人類の歴史。そこに位置づけられていく生き物たちの絶滅の物語は、単なる過去の悲劇ではないのだと、読みながら納得する。もはやこの地球上に存在しない生き物たちの饒舌な“声”に耳を澄まし、過去――現在――未来へと光を当てた鮮やかなノンフィクションだ。