発見からわずか27年で絶滅した「ステラーカイギュウ」の悲劇…最先端技術で「絶滅種の復活」はどこまで可能なのか、スリリングな過程も

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おしゃべりな絶滅動物たち

『おしゃべりな絶滅動物たち』

著者
川端 裕人 [著]
出版社
岩波書店
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784000616799
発売日
2025/01/23
価格
2,860円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ステラーカイギュウの悲劇から人と自然との共生に思いをはせる

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 人による狩猟や環境の改変によって、生き物の種がこの世界から消え去る――。そんな人為による「近代の絶滅」の物語は、私たちの生きる“いま”にどんな問いを投げかけているのだろうか。

 17世紀に絶滅したドードー、18世紀に発見されてからわずか27年で絶滅したステラーカイギュウ、そして、数十億羽もの個体数がありながら、数十年の狩猟によって姿を消したリョコウバト……。本書は近代から現代に至る動物たちの「絶滅の物語」を紡ぎながら、人と自然との共生の意味を問い直した一冊である。

 何より惹きつけられたのは、著者が地に足をつけた丁寧な調査によって、多角的な視点を常に提供していこうとすることだ。絶滅動物のかつての生息地への取材、貴重な標本の観察、学術論文や近年の新たな研究成果、そして、研究者たちへのインタビュー。著者はそれらをくまなく見渡しながら、過去に消え去った動物たちの姿をできる限り再現し、彼らが生きていた環境と絶滅の背景を丹念に描いていく。

 また、近代における絶滅の歴史を繙いた上で、現在のテクノロジーの進歩がもたらす「脱絶滅」の試みにも分け入っていく過程がスリリングだった。ゲノム編集技術や生殖補助技術などを用いた絶滅種の“復活”は、果たしてどこまで可能なのか。生物工学的な技術を使った手法の最先端を見つめつつ、「種とは何か」「生命とは何か」という根源的なテーマへとたどり着いていく論考に深く考えさせるものがあった。

 絶滅を引き起こすと同時に、種の喪失を嘆き、今ではその復活を願う人類の歴史。そこに位置づけられていく生き物たちの絶滅の物語は、単なる過去の悲劇ではないのだと、読みながら納得する。もはやこの地球上に存在しない生き物たちの饒舌な“声”に耳を澄まし、過去――現在――未来へと光を当てた鮮やかなノンフィクションだ。

新潮社 週刊新潮
2025年2月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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