『ストリップ劇場のある街、あった街』
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ピンク文化の只中にいた女優が「場末の芸能」を内側から描いた圧巻のルポ
[レビュアー] 都築響一(編集者)
昨年8月、埼玉県久喜市にあったライブシアター栗橋(旧・栗橋大一劇場)が閉館した。1970年代の最盛期には300〜400あったと言われるストリップ劇場が、いまではわずか17館。多くのひとが知らないうちに絶滅危惧種となっていた日本のストリップ劇場が「ある街、あった街」を、浅草・新宿・船橋・札幌と訪ね歩いた記録が本書。著者の早乙女宏美さんは1984年に日活ロマンポルノで女優デビュー、86年からストリップ劇場の舞台に乗るようになって、SM、自縛、さらには切腹パフォーマンスという特殊な芸風で際立つ存在感を示してきた。
これまでにもストリッパーや関係者による回想記のような本はたくさんあったが、本人いわく“ピンク文化”の只中に80年代からずっと居続けてきた早乙女さんは、すでに数冊ある著作と同じく本書でも、単なる思い出話ではなく業界の歴史や現状を丹念に調べてまとめる、いわば内側からのルポルタージュというスタンスを貫いている。舞台や撮影現場で汗や涙やいろんなものにまみれながら、一歩引いた研究者の視線で「目の前で起きていること」を記録していく地道な作業は、時を経るにつれて重要性を増していくはずだ。ストリップ史と風俗史を並列させて江戸時代から令和までを俯瞰した16ページに及ぶ巻末の年表からも、彼女の思いの強度が見てとれるはず。
「どんなに女体の内臓を見せられても満たされないのは当然のことだろう。しかし、だからこそ“ストリップ芸”が進化していったと思う」と早乙女さんはあとがきに書いている。結合部分のアップが撮れないことが爆発的に多彩な表現を生んだ日本のAVのように、花電車からナマ板、残酷ショー、獣姦ショーにいたるまで、世界中で日本でしか観ることのできなかった、エクストリームな場末の芸能。ストリップもまた、なくなって初めて真価が見出される「失われた日本」なのかもしれない。