【不景気の原因】生産性が低い、人口減少のせい、賃上げに期待など「詭弁の嘘」をデータで暴く! “トップエコノミスト”の玄人向けなデビュー作に驚嘆
レビュー
『日本経済の死角』
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トップエコノミストの明快なダメ出し
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
バブル弾けてン十年が失われ続けてきたからこそ――政治家も官僚も経営者も間違い続けてきたからこそ――生まれたのが森永卓郎や山崎元のような経済評論のスター。揃って故人なのが惜しいとして、ここにひとり、元気なスターが。
その名は河野龍太郎。フランス系外資証券のエコノミストで、金融業界内の人気投票で通算11年、トップの座にあります。玄人向けの発信が本業で、今回の『日本経済の死角』が新書デビューながら、一読驚嘆。いや、政府の審議会の委員も歴任する正調スターなのに、状況の認識から分析、ダメ出しまでが明快なのよ。
不景気の原因は、賃金が上がらず国内消費が萎えたこと。賃金低迷は、企業が正社員のベースアップを怠ったり非正規労働者に頼ったりして人件費を抑えてきたゆえ。さらに、正社員以外をも支える社会保障を政府がサボり、日銀とともに金融・財政政策を誤り続けてきた罪も大きい……。
こういう正論の正しさ、そして“生産性が低いから”“人口減少のせい”“再開した賃上げに期待”等々の詭弁の嘘が、データで示されるのは快感だし、一方、安易なイノベーション促進ではなく、誰も取りこぼさない社会政策こそが経済復活の鍵なのに、そこに手をつけないから政治まで崩壊し始めたという警告もまた、怖いくらい腑に落ちる。
エコノミストの仕事は、学術書ではなく、いま役立つ政策パンフレットを書くこと――というケインズの言葉どおりの警世の書です。