ぼく、とても火星人が見たかったんだ

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火星年代記〈新版〉

『火星年代記〈新版〉』

著者
レイ・ブラッドベリ [著]/小笠原 豊樹 [訳]/木島 始 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784150117641
発売日
2010/07/09
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

ぼく、とても火星人が見たかったんだ

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

 書評子4人がテーマに沿った名著を紹介

 今回のテーマは「占領」です。

 ***

『火星年代記』(小笠原豊樹他訳)は「SFの叙情詩人」と呼ばれるレイ・ブラッドベリの代表作だ。

 宇宙に領土を広げようとする人類が、火星探索のロケットを打ち上げる。やがて火星人は地球人から感染した水疱瘡でほぼ絶滅し、人類は本格的に移住を始めるが、故郷の地球で核戦争が勃発する……。

 発表時の1950年には未来だった1999年から始まり2026年で終わる短篇連作。1997年刊行の新版では各篇の年代が31年繰り下げられている。

 最後の短篇「百万年ピクニック」は、人類が絶滅した地球から脱出してきた家族の物語だ。

 地球の終末を見届けた父は、妻子とともに家族用ロケットで火星にやってきた。火星人もすでに全滅していたが、生活が可能な町がまだ残っていた。父は家族を運河のほとりにつれていく。

 息子の一人が言った。

「ぼく、とても火星人が見たかったんだ」「どこにいるの、パパ? 見せてくれるって約束したじゃないか」

 父親は、「そうら、そこにいるよ」と運河の水面を指さす。そこには、自分たち家族が映っていた。

 父の友人の家族が後から別のロケットでやってくることになっている。こちらの子供は男の子3人、向こうは女の子が4人。ふたつの家族が始祖となって新しい火星の歴史を作るのだ。

 領土的野心への警告と行き過ぎた文明への批評に、絶妙な配合で詩情がミックスされた、SFを超えた傑作である。

新潮社 週刊新潮
2025年2月27日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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