『邦人奪還 自衛隊特殊部隊が動くとき 2』
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日本ではもう戦争が始まっている!? 国防の最前線で元自衛隊特殊部隊作家がマンガによって描きたかった“真実”
[文] 加山竜司
2025年は戦後80年の節目にあたる。終戦以来、長らく日本は戦争や紛争から遠ざかってきた。
しかし、世界に目を向ければ新たな戦争や紛争は絶えず生まれている。日本の安全保障環境も厳しくなっており、あらゆる危機が想定される。
深刻な危機に直面した際、我が国はどう行動するのか? 何ができるのか?
著書『邦人奪還』でそうした問いを投げかけたのは、元海上自衛官で自衛隊初の特殊部隊である海上特別警備隊の創設に関わった伊藤祐靖氏だ。さらに、同書のコミカライズ版で漫画を担当したのは、北朝鮮拉致被害を題材にした漫画を複数描いてきた須本壮一氏である。両者に共通しているのは、日本の平和は決して盤石のものではなく、拉致被害に代表される通り、危機は常に隣り合わせにあるという問題意識。
リアリティにこだわって国防の最前線を描き続ける2人に、日本が直面する危機について語ってもらった。
インタビューに応じる伊藤祐靖氏(左)と須本壮一氏(右)
コミカライズまでの経緯
――現実の自衛隊には、特別警備隊や特殊作戦群といった特殊部隊が存在します。本作で題材となる特別警備隊とは、どのような存在でしょうか?
伊藤 一般的な自衛隊員とは異なり、非正規戦を想定した部隊です。私はその創設に関わりました。
――特別警備隊の創設は2001年ですが、きっかけとなったのは?
伊藤 19999年に発生した能登半島沖不審船事件です。当時の私は海上自衛隊に属していましたから、不審船に接近して立ち入り検査を行うよう命じられました。目の前で日本人が拉致されようとしているわけですから、助けないわけにはいきません。とはいえ、船に乗り込んで立入り検査をするような事案を想定した訓練をしてきたわけではありません。装備も万全ではなく、相手が武装しているかもしれないのに防弾チョッキすらない状況でした。隊員が持っていたマンガ雑誌――「少年マガジン」とか「少年チャンピオン」なんかを防弾チョッキの代わりに服の下に忍ばせていったくらいです。この時の経験を買われて特別警備隊の発足準備に関わりました。こうした体験を元に書いたのが原作『邦人奪還』です。
須本 僕は以前、北朝鮮拉致被害を題材にした作品(『奪還』『母が拉致された時僕はまだ1歳だった』『めぐみ』)を描いており、その時は色々なメディアから取材を受けました。その際に必ず聞かれたんですよ、「この拉致問題はどのように解決すると思いますか」って。でも、その時は答えられなかった。具体的なシナリオが見えなかったんです。2004年に拉致被害者の一部が帰国して、このまま解決に向かっていくかと思われたのに、まったく止まってしまった。
――いまや「北朝鮮拉致問題」という言葉自体、見かける機会が減っています。
須本 解決策と言われても、北朝鮮の政権が崩壊したら……みたいなことしか考えられなかったんですよね。この『邦人奪還』は、特別警備隊が北朝鮮に拉致被害者を奪還しに行く話です。そして、そこに至るまでの政治的プロセスが具体的に描かれている。この小説をはじめて読んだ時、かつて僕が答えられなかった回答がこの作品には書かれているように感じられました。それでぜひマンガにしたいとお願いしたんです。
――伊藤さんは本作をノンフィクションではなく、物語形式のフィクションにしたのはどのような理由でしょうか。
伊藤 守秘義務があるので、ノンフィクションだと書けないこともあるんですよ。ただ、私は自分のことを小説家とは思っていなくて、記憶の中のものを継ぎ接ぎしているんです。そうしたものをフィクションの形式にすることで、読者の方に疑似体験をしてもらえれば、と思って書きました。あの部隊が何を目指して創設された部隊で、どうあるべきだと我々は思っていたのか。そこを伝えたかったんです。
須本 僕はノンフィクションを描くつもりで挑んでいます。伊藤さんはネームや絵をチェックしてもらうときに、キャラクターの背丈や筋肉のつき方にもこだわってますよね。あれはひょっとして、実在のモデルがいるんでしょうか?
伊藤 登場人物は全部そのまんまのモデルがいます。須本さんの絵は、私がイメージしていた通りで、まさにそのまんまですよ。
マンガに登場する自衛隊特殊部隊の隊員たち
――かなり細部までチェックしているんですね。
須本 武器の取り扱い方や装備なんかは、本職の方でなければ分からないですからね。ちょっとした仕草までこだわってチェックしてもらっています。
伊藤 1巻最初の見開きのカラーイラストは、全員違う武器を持っているんですけど、プロから見ても全員構え方がしっかりしていて感心しました。
須本 それは伊藤さんのポーズを参考にして作画しましたから(笑)。実際に伊藤さんに構えてもらったところを動画や写真に撮影して作画資料にしています。アングル的に分かりづらいところがあった場合でも、伊藤さんに「ナイフの扱い方はこうですかね?」と尋ねると、すぐに「こう刺します」と動画で送ってくれるんですよ。
――1巻では魚釣島に上陸した犯人がナイフで仲間を刺し殺していました。
須本 映画やドラマでは、ナイフを刺した時に血がバーっと飛び出るシーンが描かれます。でも、実際にはそうならないんですよね?
伊藤 作戦行動中に血が飛び散るようなことはしません。だから、そうならない刺し方というのもあるんです。
須本 理に適った刺し方がある、と。そういった部分も含めてリアリティにはこだわっています。
魚釣島に上陸した犯人が仲間を血が出ないように指す!