『言いたいことが言えないひとの政治学』
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「黙って耐える」と「ガツンと言ってやる」のあいだにある戦術とは
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
渡邊十絲子・評 『言いたいことが言えないひとの政治学』岡田憲治[著]
タイトルの「言いたいことが言えないひと」は自分だと、みんなが思うのではないか。本書に出ている例だけでも、ネトウヨになった父に暴言はやめてと言いたい、PTA活動で「ムダな仕事は省こう」と言いたい、会社に給料を上げてほしいと言いたい……まだ他にもたくさんある。それがたとえ「言うべきこと」であっても、もめごとに発展してしまったらめんどうだ。自分とは考えが異なる人との接し方は難しい。
「ひたすらがまん」には限界がある。「相手に変化してもらう」のは困難だ。それに比べれば「自分が変わる」ほうがたやすいが、しかし相手の言いなりになるわけにはいかない、ここぞという場面だってある。そういうときの対処法となりうる、説得や交渉の技法を政治学者である著者はたくさん知っている。
著者が繰り返し述べているのは、「白黒はっきりつける」ことの不毛さだ。強い言葉で言い負かしてしまったら、相手との関係は完全に壊れてしまう。著者は「黙って耐える」と「ガツンと言ってやる」のあいだにある広大なゾーンに読者の注意を向け、われわれのとりうる戦術の解像度をみるみる上げていく。これが非常に痛快なのだ。
たとえば対立において「勝つ」にしても、「自分が対処できる範囲を越えないように相手や状況に工夫を加えておく」や相手を「仲間にしてしまう」などのバリエーションがある。「勝たないが負けない」道もある(「引き延ばす」など)。事態を第三者に公開するというやり方もあるし、端的に「逃げる」も戦術のひとつ。視野狭窄に陥らないよう、こんなふうにあらゆる可能性を公平に検討できるように示してくれている。
冒頭、著者自身が対人交渉の場では(属性などにおいて)強者であることに言及してくれたのもよかった。この本は「強者男性の自分語り」ではない。読者にとって、それはとても大事なことなのだ。


























