ガチガチのハードSF設定と魅力的な少女。山本弘ワールドの原点、そして未完の続編

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ガチガチのハードSF設定と魅力的な少女。山本弘ワールドの原点、そして未完の続編

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 山本弘が68歳で世を去ったのは昨年3月のこと。その作家的原点とも言うべき『時の果てのフェブラリー 赤方偏移世界』が、未完の続編「宇宙の中心のウェンズデイ」130ページ超を加えて、創元SF文庫から再刊された。『時の果て…』は、1989年に角川スニーカー文庫から刊行され、SF作家・山本弘の実力を世に知らしめた長編。

 始まりは2013年8月。地球上の6カ所に異常な低気圧が出現。〈スポット〉と呼ばれるそのエリアでは、中心に近づくにつれ重力が小さくなり、時間の流れが速くなる。その影響で世界は異常気象に見舞われ、人類文明は存続の危機に直面する。事態を打開すべく、アメリカが組織した新たな調査隊の切り札はフェブラリー・ダン。直感的に真実を見抜くオムニパシー能力を持つ彼女は、栗色の髪をした11歳の少女だった……。

 文章にはまだ若書きっぽいところがあるものの、ガチガチのハードSF設定と魅力的な少女が同居する山本弘ワールドはのっけから全開。ラストまでひと息に読ませる。書籍初収録の続編では、母のフェブラリーと娘のウェンズデイのWヒロインが主役を張り、ホーガン『星を継ぐもの』シリーズに通じる壮大な広がりを予感させる。未完に終わったのがつくづく残念。

 山本弘のSFでもっとも広く読まれているのは、既発表のロボットSF短編群に新作を加えて長編化した『アイの物語』(角川文庫)だろう。巻末に置かれた「アイの物語」が七つの物語をつなぎ、長編として鮮やかに着地させる。AIが脚光を浴びるいまこそ新たな輝きを放つ名作だ。

『去年はいい年になるだろう』(上下巻、PHP文芸文庫)は、SF作家の山本弘を主人公に、自身の人生をSF化した異色作。2001年9月11日、〈ガーディアン〉と名乗る500万体のロボット群が突如出現し、同時多発テロを阻止。彼らは、2330年を出発して1年ずつ過去へ遡り、人類を守るための歴史改変運動を続けているという……。『時の果てのフェブラリー』や『アイの物語』を含め、自身の作品もガンガン登場する。

新潮社 週刊新潮
2025年3月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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