本当に「円安は悪い」のか? 円安の恩恵と懸念すべき“行き過ぎ”を論じる

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円安の何が悪いのか?

『円安の何が悪いのか?』

著者
村上 尚己 [著]
出版社
フォレスト出版
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784866808208
発売日
2025/01/09
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

円安は景気改善へのシグナル

[レビュアー] 田中秀臣(経済学者)

田中秀臣・評 『円安の何が悪いのか?』村上尚己[著]

「円安は悪い」というイメージがなぜか広まっている。円安を日本経済の衰退の兆しとしてみている人も多い。だが村上尚己『円安の何が悪いのか?』によれば、それは単純に誤りだ。

 円安という現象は、そもそも日本銀行がお金を大量に発行したから起きている。これを金融緩和という。なぜ金融緩和をするかというと、国内の景気が悪いからだ。お金を大量に経済に注ぐことで景気を刺激する。その結果が円安なのである。

 つまり円安は景気改善へのシグナルだ。景気を良くしないまま、金融緩和をやめてしまうと景気は再び悪化する。最悪だ。また円安はさまざまな恩恵をもたらした。たとえば輸出企業は国際競争力を増し、インバウンド消費が増えて地方にも効果が及ぶ。

 円安がすすんだこの四年間は、上場企業についていえば純利益の最高額を四年連続で更新している。これは株高を招き、新NISAなどの小口の投資ブームを下支えした。もちろん雇用や企業の設備投資も堅調だ。

 もちろんいいことずくめではない。円安は輸入物価を上昇させ物価高をもたらす。これは実質所得の減少を一部もたらした。だが他方で企業業績が伸びているので賃金も上昇しているのを忘れてはいけない。また円安で経済が安定してきたので税収も増え、財政赤字も減少した。ただし今の日銀の「行き過ぎた円安」への警戒感と政府の財政政策の遅れが今後の懸念だと著者は指摘している。この著者の懸念は妥当だろう。

新潮社 週刊新潮
2025年3月6日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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