『細かいところが気になりすぎて』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『答え合わせ(マガジンハウス新書)』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
石田明(NON STYLE)×橋本直(銀シャリ)対談/漫才ほど楽しいものはない
[文] 新潮社
NON STYLE・石田明さんと銀シャリ・橋本直さん
M−1グランプリ・チャンピオンのNON STYLE・石田明さんと銀シャリ・橋本直さん。
「おもろい人には意見がある」と語り、世の中への「違和感」を大切にしている二人の、お笑いへの姿勢とは?
お笑いを綿密に分析した一冊『答え合わせ』を刊行した石田さんと、エッセイ本『細かいところが気になりすぎて』でツッコミ芸人としての性を綴った橋本さんが、2024年のM-1のすごかったところと、ネタに対する情熱を語り合った対談をお届けする。
(前後編の後編)
(前編)【「おもろい人には意見がある」M-1王者・ノンスタ石田と銀シャリ橋本が大切にする「違和感」とは】では、若い世代の言語感覚や一言で爆笑に導く芸人の共通点を語った。
NON STYLE・石田明さん
M-1 2024のここがすごかった
橋本 バッテリィズの名前が出たところで、あの話をぜひお聞きしたいです。
石田 ああ、聞き間違いかもしれないけど、な話(笑)。
橋本 めっちゃ大好きなんですよ、あの話。お願いします!
石田 M-1の1本目、ネタの最初にサンパチマイクに駆け寄って「どうもバッテリィズです、お願いします~」ってまず挨拶して、「お願いします、お願いします~」ってエースが客席に何回かおじぎしたあとに審査員席を見た瞬間、こっち見たまま「おはようございます」っておじぎしてん。
橋本 本番前、出場者は審査員の方にはお会いできないから、エースからしたらその日石田さんたちに会うのはあの瞬間が初めてで、だから「おはようございます」って挨拶した。
石田 聞き間違いかもしれんけどな(笑)。アホすぎて一瞬で心掴まれたよ。そもそも登場してからずっと顔も体も小刻みに動いていて、相方が喋るたびに相方のほうを見ちゃう。これって僕が養成所で最初に注意する仕草やねん。
橋本 散るから、ですよね。
石田 そう、お客さんの目が散ってネタの設定が入ってこないから。でもあのソワソワした動きが「アホ」を際立たせていたよね。
橋本 もちろんコンビ間であらかじめ決めた演出もあると思うんですけど、エースが持ってる地のアホさというか少年のままのピュアさをあの緊張の場でそのまま体現できるってすごいことやなと。あんなんできないですから。
石田 嘘つきたくないんやろうね。
橋本 エースの「おはようございます」話であらためて今思いますが、石田さんはあの本番を審査しないといけない立場だったから、僕が見た「M-1 2024」ともきっと全然違いましたよね。審査員席は舞台の下手にあって、そもそも見る角度からして違うし。だからほんまの「M-1 2024答え合わせ」は一緒に審査された同期のお二人――ナイツの塙さん、オードリーの若林さんと本番の後に行かれた飲みの場にあったんやないですか? きっと3人にしかわからない、凝縮度がめっちゃ高い話をされたはず。
石田 あれはアルコール度数高かったわ(笑)。
橋本 あのメンツで飲みながら漫才について話すなんて……しびれます。
石田 クローズドの空間だからこそ出てくるパンチラインがあったし、二人の意見を聞いて自分の理解も深まったよね。
橋本 そうすると、また本を出したくなりませんか? 漫才についての考えもどんどん変わるでしょうから『答え合わせ 2025』とか。
石田 ほんまそうやねん。この本も「現段階の最後の意見です」ってつもりで。子どもの学校の教科書を見ると自分らの頃と年号も名称もびっくりするくらい変わっていたりするから、時代によって変化するものだという前提で気軽に読んでもらいたいね。
銀シャリ・橋本直さん
いまも毎年M-1用のネタを作る
橋本 そういえば年末年始は漫才の特番がたくさんありましたが、NON STYLEさんは全部の番組でネタを変えたっておっしゃっていましたよね。漫才が好きで漫才番組をしっかり追いかけている人を残念がらせないためで、お笑い好きだったあの頃の心を忘れていないのがほんますごいです。
石田 中3の自分に「あ、置きにいったな」ってがっかりされたくないやん。
橋本 だから滑ったネタもあったってお話もまた人間っぽくて素敵です。現場の空気、お客さんの様子、自分や相方のコンディション、喉の調子……。新しいネタを試すときってかなりパワーが必要やから、いつどこでどうチャレンジするかの判断が難しいなっていつも思ってます。ウケなかったら我が子がボコボコにされたくらいの気持ちになるし、「ああもっと大事なところで出してあげたらよかった、こいつはほんまはこんな滑るような奴じゃないのに」ってへこみます。
石田 もっと難しいのは、テレビで新ネタをやるために先に寄席にかけるとなると、せっかくお金を払って見にきてくれているお客さんにまだ不安定なネタを見せるのか、ともなるし……。
橋本 芸人同士だとそのあたりの機微をお互いに感じ合ったりもしますよね。去年の年末ごろ大きめの会館で勇気出して新ネタをやってみたら結構笑ってもらえたことがあったんですが、次の出番のテンダラーさんが「これTHE MANZAIでやるやつ? めっちゃええやん」って言ってくださって、なんかちょっと恥ずかしさも感じました。
石田 自分らで言うのもなんやけど、お笑いの賞レースは卒業したものの、NON STYLEも銀シャリもネタ作りへのモチベーションはまったく落ちてへんよね。
橋本 そうですね。漫才は大好きな仕事であり趣味であり、僕にとっては一番の表現ツールです。漫才で感じられる快感は他のそれとは絶対に代え難い。
石田 僕は毎年、M-1やったらこの2本、THE SECONDやったらこのネタって決めて勝手に参加してるんやけど、自分の中では優勝した年もある(笑)。
橋本 僕もそうです(笑)。単独ライブをやり続けているのも、キレキレの2本を毎年ちゃんと作りたいからです。
石田 僕の場合は芸人さんも納得させられるネタ、寄席で爆笑がとれるようなネタ、エンタの神様でウケるようなポップなネタの3種類ぐらいに分けて作って、どれが残っていくかどんどん試していく感じにはしているかな。最近の銀シャリはどこの劇場でも一番ウケていて、ライブ感というかその場で生の漫才をしている感じが羨ましくて、そのラインで作ったネタもあるで(笑)。
橋本 すべてを研究の材料にされている(笑)。M-1を見ていてもどの漫才もみんなほんまに面白いから、そこに自分らも現役として喰らいついていかないといけないって思います。喰らいつくっていうよりも、ちゃんとチャンピオン然として存在できないと自分が銀シャリにがっかりしてしまうから。
石田 せやな、憧れつづけてもらえるように必死に頑張り続けるしかないよな。
橋本 はい。石田さんと同じで僕も銀シャリの一番のファンでい続けたい。これからも頑張っていきたいです。
***
【もっと読む】(前編)【「おもろい人には意見がある」M-1王者・ノンスタ石田と銀シャリ橋本が大切にする「違和感」とは】では、若い世代の言語感覚や一言で爆笑に導く芸人の共通点を語った。
***
石田明(いしだ・あきら)
お笑いコンビ「NON STYLE」のボケ、ネタ作り担当。1980年2月20日生まれ。大阪府大阪市出身。中学時代に出会った井上裕介と2000年5月にコンビ結成。2008年「M-1グランプリ2008」優勝など、数々のタイトルを獲得。2012年、2013年、2年連続で「THE MANZAI」決勝進出。「M-1グランプリ2015」「M-1グランプリ2024」では決勝の審査員を務めた。2021年から、NSC(吉本総合芸能学院)の講師を務め、年間1200人以上に授業を行っている。ゲストの芸人とともにお酒を飲みながら漫才論や芸人論などを語るYouTubeチャンネル「NON STYLE石田明のよい~んチャンネル」も人気。
橋本直(はしもと・なお)
1980年生まれ。兵庫県出身。関西学院大学経済学部を卒業後、2005年に鰻和弘とお笑いコンビ「銀シャリ」を結成し、2016年に「M-1グランプリ」で優勝。現在はテレビやラジオ、劇場を中心に活躍し、幅広い世代から人気を得ている。『細かいところが気になりすぎて』は初めての著作になる。