『図書館を建てる、図書館で暮らす』
- 著者
- 橋本 麻里 [著]/山本 貴光 [著]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784103559917
- 発売日
- 2024/12/18
- 価格
- 3,630円(税込)
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『図書館を建てる、図書館で暮らす 本のための家づくり』橋本麻里/山本貴光著
[レビュアー] ドミニク・チェン(情報学研究者・早稲田大教授)
本好き2人 本との同居
本は「ある」のではなく、人と共に「居る」存在である。本書を読んで、そんなアニミズム的な表現が自然と浮かび、腑(ふ)に落ちた。当代でも無類の本好きである二人の著者が、五万冊の蔵書を収蔵できる、文字通り図書館のような新居〈森の図書館〉を建てたプロセス、そこに至るまでにそれぞれが過ごしてきた本たちとの同居生活、そして両者が本そのものを対象に行なってきた展示や空間設計の仕事をまとめている。読み終わる頃には、読者はきっと身の回りの本たちの息遣いをより愛(いと)おしく感じられるようになるに違いない。
電子書籍が発明されてから少なくない時間が経(た)ったが、いまだに印刷された本はなくならない。重くて場所もとる本と比べてタブレットやスマホだけで読める電書の方が遥(はる)かに効率的なはずだが、それでも私たちは図書館や書店の本棚で覆われた空間に身を置くと恍惚(こうこつ)としてしまう。〈森の図書館〉司書長の山本は、本と結ぶ関係は「読んだ/読んでない」という二値的なものではなく、「顔見知り」から始まって、徐々に「顔なじみ」になり、最終的には「相棒のような存在」になるという。また、大蔵書家アビ・ヴァールブルクの「良き隣人」という言葉を引き、本同士の隣接関係によって本棚全体から異なる意味が立ち上がるという考察も首肯させられる。30頁(ページ)を超える〈森の図書館〉の美しいカラー写真を見せられると、このような経験知が圧倒的な説得力をもって感じられるのだ。「たしかに本たちも生きている!」と。
〈森の図書館〉館長の橋本による構想と、建築家・三井嶺による設計過程が間取り図と共に詳述されている点も魅力的だ。おいそれと真似(まね)はできないが、著者たちの本を愛し、共に生きる姿勢に感化されることはできる。あなたはどんな本たちを伴侶として迎えるだろうか。(新潮社、3630円)