『吉永進一セレクション 第一巻 霊的近代の興隆――霊術・民間精神療法』栗田英彦編/『吉永進一セレクション 第二巻 洗脳・陰謀論・UFOカルト』横山茂雄編

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霊的近代の興隆

『霊的近代の興隆』

著者
吉永進一 [著]/栗田英彦 [編集]
出版社
国書刊行会
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784336075536
発売日
2024/12/17
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

洗脳・陰謀論・UFOカルト

『洗脳・陰謀論・UFOカルト』

著者
吉永進一 [著]/横山茂雄 [編集]
出版社
国書刊行会
ジャンル
哲学・宗教・心理学/宗教
ISBN
9784336075543
発売日
2024/12/17
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『吉永進一セレクション 第一巻 霊的近代の興隆――霊術・民間精神療法』栗田英彦編/『吉永進一セレクション 第二巻 洗脳・陰謀論・UFOカルト』横山茂雄編

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

今に続く精神世界の探究

 三年前に物故した宗教学者の遺(のこ)した文章を集めた、二巻にわたる論集。第一巻の表紙を飾る写真は、二十世紀初頭から一九二〇年代までの日本で流行した、「霊術」「精神療法」と呼ばれる治療法の、施術のようすを写したものと思われる。第二巻は一九五〇年代に撮影された「空飛ぶ円盤」の有名な写真。怪しさに満ちあふれた装丁である。

 しかし著者はこの「いかがわしさ」に、神秘的なものをめぐる想像力を解明するための、重要な入口を見いだしている。近代の日本で主に神道系の新宗教が「民衆」に広まったのとは異なって、精神療法は知識人に受容された。近代的な科学知識の普及を前提としながら、それに満足できず、新たな人間観・社会観・宇宙観を求める。そうした動向が背景となっていた。

 これは同時代の欧米で、スピリチュアリティすなわち内的な霊性を重視する思想や、神秘主義、アジアの宗教への関心が盛んになったことと呼応する、グローバルな動向の一環であったとも言える。その一例として吉永は、宗教学者でもあった大川周明と、フランスの秘教主義(エソテリスム)の思想家との交流を詳しく跡づけている。そこでは従来のキリスト教やイスラム教とは異なって、個人に内在する「心霊」が、世界の根本をなす「生命」と本来は一体であることが説かれていた。

 人間や自然界や歴史の表層だけに関する説明をこえて、その背後にある大いなる真実を明らかにしたい。そうした隠れた意味への希求が、戦後のアメリカのカルト教説や、日本におけるオカルト流行、さらにオウム真理教事件にも通底していると吉永は指摘する。トランプ大統領支持者やネット右翼のあいだに横行する陰謀論の源流を示す内容でもあるだろう。

 そうした「精神世界」への探究が、アメリカではUFO実在説やユダヤ陰謀論に結びつくのに対して、日本ではアニミズムの色が濃いという指摘もおもしろい。それぞれの文化の根底にある志向が、現れる形を変えながら、現代にまで生き続けているのである。(国書刊行会、各3960円)

読売新聞
2025年2月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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