『刑務所に回復共同体をつくる』
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『刑務所に回復共同体をつくる』毛利真弓著
[レビュアー] 東畑開人(臨床心理士)
炎のような臨床心理士による一冊。著者は刑務所に「回復共同体」を作ることに挑戦する。人々が率直に心を表現し、話し合える場所を作ろうとする。
と書くと、ロマンチックに聞こえるかもしれないが、この本が描くのは過酷な現実だ。いかに人々が率直に話し合うことが難しいか。それは受刑者だけではなく、刑務所で働く人もそうだし、著者自身もそうだ。
パワーによって、人に言うことを聞かせる。刑務所にはそういう構造があり、文化がある。だから、回復共同体を作ろうとすると、さまざまな妨害に出会い、理不尽な障害に直面する。
結果、著者は「敗北」する。現場への立ち入りを禁止され、退職を余儀なくされる。挑戦は失敗に終わったかのように見える。しかし、人は「敗北」することではじめて、真理に触れる。著者はそこにあった暴力と傷つきを、身をもって知る。
この経験のすべてを燃えるような言葉で、きわめて率直に著者は記す。人はなぜ率直に話せなくなるのか、何によって話せるようになるのか。これは実は、私たちの生活のどこにでもある問題のはずだ。(青土社、2860円)