『北朝鮮を解剖する』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『韓国とつながる』
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『北朝鮮を解剖する』礒﨑敦仁編著/『韓国とつながる』浅羽祐樹編
[レビュアー] 佐橋亮(国際政治学者・東京大教授)
隣人との違い知る努力
「良い壁が良い隣人を作る」と詠んだのは詩人のロバート・フロストだ。いや、隣人をよく知り、互いを尊重すれば壁に頼らないでも共存は可能ではないか。そう理屈で分かっても、ではどう隣人を知れば良いのか。
日本と同じような経済問題に悩まされている韓国だが、古い社会習慣やめまぐるしく変わる政治に私たちは驚いてしまう。北朝鮮は閉ざされていて、知る手がかりさえ掴(つか)めない。
ドラマ鑑賞どころか旅行や留学でも分かりそうにない、そもそも北朝鮮には行くことができないと放り出したくもなる。それでも知りたいと思うとき、やはり本を紐(ひも)解(と)いてはどうだろう。
あわせて21人の著者が様々に朝鮮半島を語るこの2冊は同時期に発行された以外に何の接点もないのだが、ちょっとした出来心で読み比べてみると、たとえば後半を占める文化編だけでも笑みがこぼれるくらい面白い。
おすすめは韓国から先に読むこと。政治や社会問題への思いをぶつける韓国と、指導者のために作品を求められる北朝鮮では、芸術のあり方は全く異なる。それでも優れた作品を生み出そうとする表現者に思いを馳(は)せる。
韓国・朝鮮語の箇所も面白い。言葉には地域毎(ごと)に様々な変化があると知れる。北朝鮮で実際に使われている語学教材を取り上げた解説は、ソウルの語学堂で学んだ評者にも驚きの内容だ。
『北朝鮮を解剖する』は硬派な書きぶりだが、読者が参考にできる北朝鮮の情報源を惜しげもなく公開し、政治や経済の変化の掴み方を教えてくれる。『韓国とつながる』は、韓国で実際に使われている言葉を交えながら解説しており、それも分かりやすい。韓国の日本観や「恨(ハン)」といった気になる概念も詳しく説明している。
韓国との共通性を発見して納得するだけではなく、やはり違うことをありのままに理解することが必要だろう。北朝鮮についても、異なる存在として最初から遠ざけるのではなく、なぜそうなっているのかを知る努力を続けたい。(慶応義塾大学出版会、3850円/有斐閣、2640円)