欲しいものがコロコロ変わる、シェア、ものより経験……「リキッド消費」が止まらない

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リキッド消費とは何か

『リキッド消費とは何か』

著者
久保田 進彦 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784106110764
発売日
2025/02/15
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】欲しいものがコロコロ変わる、シェア、ものより経験……「リキッド消費」が止まらない

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

Amazonに代表されるネット・ショッピングの普及、メルカリやYahoo!オークションなどリユース・マーケットの一般化、あるいは新製品をテレビ広告ではなくSNSで知るようになったこと、コンビニエンス・ストアの店頭で「期間限定」や「コラボ製品」をよく目にするようになったこと、スターバックスのようなカフェの影響でコーヒーなどをペーパー・カップで飲むのが普通になったことなど――。

他にもいろいろあるでしょうが、『リキッド消費とは何か』(久保田進彦 著、新潮新書)の著者の著者が指摘しているように、私たちの消費生活も、あらためて振り返ってみれば意外と変化しているものです。

そして、そうした消費生活の大きな変化を捉えたのが、本書のテーマである「リキッド消費」。リキッドは「液体」という意味なので、「液状化した消費」ということ。つまりは「消費の流動化」であり、「気まぐれな消費」ともいえそうです。

① その時々で欲しいものが変わる(短命性)

② わざわざ買わなくても、レンタルやシェアリングでよい(アクセス・ベース)

③ 物にこだわらず、むしろ経験を大切に思う(脱物質)

(「はじめに」より)

「リキッド消費」を特徴づけるのは、これら3つの要素。そのコンセプトは、バーディーとエカートというイギリスの研究者によって2017年に提唱されたそうです。比較的新しい考え方ではあるものの、すでに今日のマーケティング研究や消費者行動研究の基盤となりつつあるのだとか。

それは現代の消費生活を理解するカギであり、消費をめぐるさまざまな「なぜ」を理解する手がかりにもなるようです。きょうは第2章「消費が液状化する――リキッド消費とは何か」に焦点を当て、それら3つの特徴をさらに深掘りしてみたいと思います。

特徴1:価値のはかなさ「短命性」

リキッド消費の第一の特徴は短命性。端的にいえば、「価値が場面ごとに限定される」ため、その寿命が短くなることを指すということです。たとえば、仕事のときに大切なことは仕事という場面に限定され、趣味に打ち込んでいるときに大切なことは趣味という場面だけに限定される、といったように。

重要なポイントは、短命性の背景に、コマ切れ社会、合理的で実利思考の価値観、社会全体のスピードアップが潜んでいると考えられていること。

現代人の生活は、仕事、家庭、友人関係、ネットなど、複数の異なる場面から構成されています。そして、それぞれの場面で相手も話題も変わります。「お仕事モード」「趣味モード」などの表現がよく使われるように、私たちは「コマ切れ社会」のなかで生活をしています。また、たいがいの人は、それぞれの場面に応じて複数の顔を持っています。相手に応じて、異なる自分を使い分けている人も多いでしょう。(43ページより)

仕事をしているとき、友人と会っているとき、趣味に打ち込んでいるとき、家族とくつろいでいるときなど、大切だと思うものはそれぞれの場面で変化します。価値が場面ごとに変化するため、消費行動も変化することになります。その場に応じて次から次へとテンポよく消費が楽しまれるわけですから、そのような傾向が強まると価値の寿命は短くなり、個々の製品やサービスの陳腐化も早まるわけです。

私たちの購買行動が合理的で実利志向的な傾向を強めてきたことは、「コスパ」ということばが浸透したことからも確認できます。

「コスパ」志向が強くなると、「同じ費用や労力なら、より大きな成果を得たい」、「同じ成果を得るなら、より少ない費用や労力で済ませたい」と思うようになります。まさに合理的で実利志向的な価値観です。(45ページより)

そうした価値観が強まると、製品を購入し消費することから得られるベネフィット(便益)がより重視されるようになり、意思決定はドライなものになるはず。その証拠に、ネット・ショッピングでは、わずか1円の差で顧客が去っていくことも珍しくありません。そんなところからもわかるように、購買行動が合理的で実利的になるにつれ、短命性により拍車がかかるのです。(432ページより)

特徴2:所有しないで消費する「アクセス・ベース」

リキッド消費の第2の特徴は、アクセス・ベース傾向が強いこと。

アクセス・ベース消費とは、「市場が介入できる[すなわち売り買いはできる]ものの、所有権の移転が生じない取引によって構成される消費」のことです。つまり物を購入して所有するのではなく、一時的にアクセスして経験を得る(そしてその経験に対して対価を支払う)消費のことです。価値にアクセスする消費という意味で、アクセス・ベース消費といわれます。(49ページより)

アクセス・ベース消費はレンタル、リース、シェアリングなどによって実現されるもの。ご存知のとおり最近では、音楽や動画の配信などのコンテンツ・ビジネスの多くもアクセス・ベースになりつつあります。そのため、「所有しないで消費する」ことが多くなったわけです。

なおアクセス・ベース消費は、消費者に少なくとも3つの効果をもたらすといいます。①所有がもたらす負担を軽減する、②十分な経済的手段を持たない消費者の可能性を広げる、そして③バラエティ・シーキング行動(消費者がバラエティ=多様性を求めるために、ある製品カテゴリーのなかで購買するブランドを頻繁に変えること)を可能にすること。日常生活を振り返ってみれば、無理なく理解できるのではないでしょうか。(49ページより)

特徴3・ものに頼らない「脱物質」

リキッド消費の第3の特徴は、脱物質傾向が強いことです。

脱物質とは、同じ水準の機能や価値を得るために、物質をより少なくしか(あるいはまったく)使用しないことです。(53ページより)

たとえば、写真がいい例です。かつて私たちは写真を、ネガやプリントという“物質の状態”で保存していました。しかしいまでは、大半の人がスマートフォンやパソコンのなかにデジタル・データとして保有しています。

また、電子マネーを使う人も増えました。金銭を所有しているという点では紙幣と同じだとはいえ、電子マネーの場合、物質に頼り得ことなく所有していることになるわけです。その他、紙の診察券の代わりにデジタル診察券を導入するクリニックが増えていることなども含め、現代では脱物質の傾向が高まっているのです。(53ページより)

リキッド消費に関する一般書はこれまでほぼ見当たらなかったため、本書は日本で初めて(おそらく世界的にも初めて)の解説書となるそう。コンセプトの解説のみならず、日本国内での分析結果も多数紹介されているだけに、現代の消費の動向を無理なく理解できるはずです。

Source: 新潮新書

メディアジーン lifehacker
2025年3月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

メディアジーン

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