『ゆるストイック』
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【毎日書評】己を知り、没頭し、変化し続ける……「ゆるストイック」に生きるヒント
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
著者によれば『ゆるストイック ── ノイズに邪魔されず1日を積み上げる思考』(佐藤航陽 著、ダイヤモンド社)は、「どのように日常を過ごしていくべきか」を考えるためのガイドブックだそう。
好景気の時代には競争が激化し、生き方に迷う人が増えました。また、世界中で自粛が強制されたパンデミック期には、多くの人が「がんばらなくていい」というメッセージに救われたりもしました。
そして“日常”が戻ったいま、以前のように「成長」「競争」「勝利」を求めるような“意識高い系の生き方”にはもう戻れないと感じている方も少なくないはず。しかしその一方、「無理せず、自分らしく、求められる最低限のことだけをすればいい」という生き方に心の底からは納得できていないという人もいることでしょう。
そこで本書において著者は、社会の変化を整理し、それをもとに「どのようなスタイルで生きていくべきか」を考察しているわけです。
といっても、「意識高い系か?」「意識低い系か?」といった極端なスタイルをすすめているのではありません。
自分の価値観を大切にしつつも、柔軟に適応する、「ゆるストイックな生き方」。
それを提案します。(9ページより)
第1章から7章までの順序に従って話が進められていく構成。そのため基本的に著者は、最初から順番に読み進めることをすすめています。ただし、そうした流れを再現するわけにはいかないので、ここではあえて第4章「ゆるストイックに過ごす方法」に注目したいと思います。
ここで示されているのは、「才能と運が支配する世界で、いかに努力を続けていけばいいのか」ということ。具体的には、「自分に配られたカードを知る」「活動に没頭する」「柔軟に変化し続ける」という3つの軸で考えていくのがいいそうです。
それぞれを確認してみましょう。
1:自分に配られたカードを知る
まず大切なのは、自分がどんなことに興味を持ち、なにに快楽や苦痛を感じるのかを知ること。
人は生まれながらにしてさまざまな個性を持っており、物事の感じ方も多種多様。しかし、自分がどのような個性を持っているのかは、試行錯誤を繰り返さなければ見えてこないものでもあります。
著者いわく、それは頭の上にトランプのカードを掲げて生きているようなもの。
他人に配られたカードはよく見えるけど、自分に配られたカードは自分からは見えません。
他人との交わりや社会との関わりの中でようやく、「自分に配られたカードはおそらく〇〇だろう」と、当たりがつけられるようになります。
わかりやすい強み(頭がいい、顔がいい、話がうまい……)が見つからなくても、落ち込む必要はありません。
他人と自分の違いさえわかれば、戦略は立てられます。(156〜157ページより)
自分にとって苦痛なく続けられることであれば、それは「独自性」を発揮するきっかけになるはず。そして重要なポイントは、自分が無意識にしてしまう習慣をうまく活用し、社会で自分らしい基盤を築くこと。
つまり、自分の「持ち札」を理解することが、人生をうまく進めるための第一歩だというわけです。(155ページより)
2:活動に没頭する
自分を知ったあとに大切なのは、目の前のことに集中すること。なにかに熱中することは、脳にとっての「リフレッシュ」にもなるからです。
脳内の「デフォルトモードネットワーク(DMN)」という領域が覚醒し続けたままだと、当然ながら疲弊してしまいます。そして、そんな状態がずっと続くと注意力が散漫になり、不安を感じたり、精神的な不調を引き起こすこともあるようです。
しかし、なにかに没頭しているときはDMNの活動は低下し、脳がリラックスした状態になるのだとか。したがって、意識的になにかに夢中になる時間をつくることが、心の健康にとって大切だというのです。
不安や失敗への恐怖にとらわれそうになったときは、目の前のことにとことん没頭することです。
没頭することで、脳を休ませれば、充実感が得られ、周りの雑音も気にならなくなります。(160ページより)
だからこそ、「没頭するクセ」を身につけるべきだということ。(158ページより)
3:柔軟に変化し続ける
私たちは、未来を「いま」の延長で考えがち。明日もきょうと同じことが続くものだと、無意識のうちに感じているということです。
しかし実際には、社会や環境の前提は次々と変わっていくものです。そこで「変わらないものはなにもない」という事実を受け入れ、自分自身も変化し続けるという意識でいることが重要であるわけ。
そして、世の中のチャンスは常に変化の周辺にあるので、自分も変わり続ける努力をすることでチャンスに遭遇する確率も上がっていきます。(161ページより)
人生においては、予期せぬ出来事や些細な偶然に大きく左右されることがよくあるもの。それは私たちにコントロールできないことでもあるだけに、「自分は変化に対応できる」という柔軟なマインドを持つことが大切。そうすれば、チャンスに出合う確率が高まるのです。
それに、いま人生のどん底にいたとしても、それが永遠に続くわけではありません。次に、思いがけない出来事が訪れるかもしれないのです。変化を受け入れ、チャンスの周辺に自分を置き続ける努力をすることが、結果として大きな成果へとつながるということです。(161ページより)
「己を知り、没頭し、変化し続ける」という3つの軸で努力を重ねれば、やがて自分らしい方向性が見つかるはず。その結果、運と才能のバランスがとれた成長を目指せるだろうと著者は述べています。それは、「ゆるストイック」に生きていくための重要なポイントなのかもしれません。
Source: ダイヤモンド社