『高宮麻綾の引継書』
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個性的&魅力的なキャラクター満載で愉快痛快、新型お仕事ミステリー見参!
[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)
瀧井朝世・評 『『高宮麻綾の引継書』城戸川りょう[著]
第三十一回松本清張賞の最終選考で、受賞は逃したものの選考委員や編集者からの評価が高く、刊行が決まったという一作。
食品原料などを扱う商社に入社し三年目の高宮麻綾は、ビジネスコンテストで新規事業を提案し優勝。さっそく事業化に着手しようとするが、突如親会社から「リスク回避」を理由に企画を白紙に戻され、怒りを爆発させる。そんな折、偶然社内の文書保存室で見つけたのは古い引継書と、殺人を匂わす告発メモ。それが自身の企画に対する「リスク」の正体だと思った彼女は、殺人犯を見つけ出そうとするが――。
高宮の気性の激しさがなかなか強烈。苛立つと舌打ちや貧乏ゆすりを始め、暴言を吐き出す。しかし、仕事で理不尽な目にあった時の、憤懣やるかたない気持ちはよく分かる。彼女が感情を爆発させる様子は、ちょっぴり痛快ですらある。
事業化実現のために無茶な行動に出て問題児扱いされた高宮は、異動させられ、さらには出向もする。告発メモの謎のほかにも一難去ってはまた一難の状況で、彼女がどう対応していくかで読ませる。そのなかで、高宮は精神的な成長を遂げていくのだ。気性の荒さは変わらずだが、俯瞰的・長期的に物事をとらえていくようになった彼女が、物語の終盤で下した決断は――。
高宮にこき使われる気の良い後輩の天恵、協力しようと連絡をよこす親会社の社員でクールな風間、高宮の出向先であるバイオ事業会社の実直な社員の角田など、個性的&魅力的なキャラクターが配置されている。登場人物は多いが、それぞれの性格や働き方が絶妙に書き分けられており、読んでいて混乱することはないだろう。
働いていると腹立たしいことは多々あるが、でもやっぱり仕事って楽しいよね、という気持ちにさせられる。活力を与えてくれるお仕事ミステリーである。