『ブラック郵便局』
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いつから信頼を裏切り、集票組織に成り下がってしまったのか
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
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東えりか・評 『ブラック郵便局』宮崎拓朗[著]
読み進むうちにふつふつと怒りがこみ上げてくる。かつて郵便局は地域の安全装置のような役割を担っていた。誰もが信頼してお年玉を貯金し年金を受け取り子どものために学資保険に加入した。いつから信頼を裏切り、自民党の集票組織に成り下がってしまったのか。
本書に詳述されている不正疑惑にはいくつも思い当たる節がある。
10月に入るとすぐに「年賀状の予約をしてください」とわざわざ郵便物を届けてくれる配達員。選挙の前に「○○候補にお願いします」と連絡してくる局長の奥さん。なぜか世襲される地元の郵便局長。行方不明になる郵便物。
本書は、それぞれの不正を6年以上をかけて掘り起こし、郵政グループを巡る取材・報道で第3回調査報道大賞優秀賞をはじめとする数々の賞を受賞し、顕彰された西日本新聞記者の著者による渾身の記録である。
はじまりは2018年に同紙に載せた「郵便局員たちがはがきの販売に過剰なノルマを課され、自腹で購入している」という記事だ。このあと著者のもとに、日本全国から続々と情報が集まるようになる。
業務上の不正だけではない。パワハラは常態化し自殺者も出た。内部通報しても会社ぐるみで隠蔽される。局長になるためには夫婦そろって自民党員になることを強制される。
郵政グループは07年の民営化により大きく組織が変革された。だが全国津々浦々に存在する郵便局の実態は変わらず、働いている人もそのままだ。何がどう違うのか、利用者は理解できているのだろうか。
既得権益を守ろうとする郵便局長たちは、仲間から政治家を出すために集票にかけ回る。年末にもらうカレンダーまでが選挙活動の一環になっているとは思わなかった。
今年7月には参院選が予定されている。郵政グループの暴挙はいつまで続くのか。我々は目を凝らして結果を見極めなくてはならない。