『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』
- 著者
- ロジャー・コーマン [著]/ジム・ジェローム [著]/石上 三登志 [訳]/菅野 彰子 [訳]
- 出版社
- 早川書房
- ジャンル
- 芸術・生活/演劇・映画
- ISBN
- 9784150506148
- 発売日
- 2025/01/27
- 価格
- 2,200円(税込)
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実業が虚業になった今、35年前の「映画本」が必読の“ビジネス書”に
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
林操・評 『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』ロジャー・コーマン[著]ジム・ジェローム[著]
監督、脚本家、製作者として、1950年代から70年近く仕事を続け、去年98歳で世を去ったロジャー・コーマン。ハリウッドの大物ながら、手がけた700本超に大作は皆無という「低予算映画の法王」「カルト映画の王」だった。
そのコーマン御大が1990年に出してた自伝の邦訳がコレ。実は92年刊の単行本があるんだけれど、長い絶版を経た3分の1世紀後の文庫化ゆえ、新刊扱いでご紹介として、ではなぜ映画本をビジネス書として? その問いへの答えは、短く言えば「映画だってビジネスでしょ」であり、長く言うなら次のとおり。
――昔々、この国(ニッポン)には実業と虚業がありました。実業はちゃんと学校出てネクタイ締めたり制服着たりの男たちが鹿爪らしく一生を賭ける立派な、でもリスク低めなビジネスであり、虚業はその正反対でした。
一方、かの国(アメリカ)では実業虚業の区別は元から薄く、映画製作でさえ出資者を募る以上、無声白黒の時代から弁護士会計士が不可欠。同じころ、石油採掘も自動車生産も読みが外れると潰れるギャンブルでした。
翻ってこの国(ニッポン)では、重厚長大から軽薄短小へ、バブルと崩壊、ソフト化、グローバル化等々の40年を経て、実業も一寸先は合併売却破綻というリスク高めな商売に。そもそも自由主義経済では真面目ぶってリスクを避けるニッポン型実業こそ異端で、それが破綻した今、求められているのは虚業で一世紀以上栄えてきたハリウッドの知恵なのです――。
なかでもコーマンの記録が貴重なのは、大作主義に走らず小さく長く儲け続けてきたゆえ。業界の常識の裏をかき何本もの映画を短期間にまとめ撮りして配給にまで乗り出すような柔らかすぎる発想と強かすぎる行動には、GAFA式・テスラ式の大技のみならず、ニッポン勢が得意な(はずの)小回り利かせる小技も山盛りで、働く皆様にはこの本、仕事術と経営学のテキストでっせ。