『戦後日本の貧困と社会保障 社会調査データの復元からみる家族』相澤真一/渡邉大輔/石島健太郎/佐藤香編

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戦後日本の貧困と社会保障

『戦後日本の貧困と社会保障』

著者
相澤 真一 [編集]/渡邉 大輔 [編集]/石島 健太郎 [編集]/佐藤 香 [編集]
出版社
東京大学出版会
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784130511490
発売日
2024/12/02
価格
6,380円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『戦後日本の貧困と社会保障 社会調査データの復元からみる家族』相澤真一/渡邉大輔/石島健太郎/佐藤香編

[レビュアー] 福間良明(歴史社会学者・立命館大教授)

調査票が示す家族の変遷

 地方の文書館で資料をあさっていると、数十年前の調査票に出会うことがある。その回答内容から、思いがけない発見に至ることも少なくない。歴史研究に携わる者としては、至福のひと時である。

 とはいえ、実際にそれらを精(せい)緻(ち)に分析し直すとなると、膨大な労力を要する。傷んだ原紙の写真を一枚ずつ撮影し、その画像データをもとに、気の遠くなるような入力作業が始まる。手書きの自由記述欄の判読も、容易ではない。

 本書はその困難を押して、半世紀以上前の調査票を復元・分析し、各種史資料と突き合わせながら、戦後日本の貧困や福祉、家族の様相を多角的に描いている。ことに、家電普及と家事時間の関係は、現代を考えるうえでも示唆的である。

 ともすれば、高度経済成長期における洗濯機や掃除機等の普及は、主婦の家事負担を軽減したと思われがちである。だが、家事の時間は、その前後で大きな変化はなかった。これが暗示するのは、家事の省力化は新たな家事の発見をもたらし、主婦たちを「家事の質の向上」に駆り立てたことである。その努力や規範は、主婦を家庭にとどまらせ、外での仕事から遠ざけたことは想像に難くない。

 それは、今日の家族の問題にもつながる。男女を問わず家事を担うことは、ようやく「当たり前」の規範となりつつある。だが、そこに家事の「手抜き」を認めない暗黙のルールがあるとすれば、それは家族の疲弊をもたらしかねない。

 ほかにも、本書は興味深い知見に満ちている。高度成長による賃金上昇は、低所得者層にとって、奨学金返済の見通しが立つことを意味し、それは彼らの高校・大学進学を後押しした。だが、その「成功モデル」は、給付型ではなく貸与型の奨学金を一般化させ、教育への公的支援が貧弱な今日の状況の遠因ともなった。

 過去の調査票の地道な分析から、いかに当時の社会史をマクロに捉え返すのか。歴史研究と計量社会学が交差する本書の視座は、同時に現代の家族や貧困、教育の問題をも浮き彫りにしている。(東京大学出版会、6380円)

読売新聞
2025年3月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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