『産む気もないのに生理かよ!』
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<書評>『産む気もないのに生理かよ!』月岡ツキ 著
◆「産まない選択」の苦労 言葉に
日本の合計特殊出生率が最低を更新し続けて、久しい。私もそれに貢献する一人だ。出産についての問いが差し迫る機会は少ないが、たまに思い立ってマッチングアプリを触ると、プロフィール入力で「子供が欲しい」「どちらでもいい」「欲しくない」の意思表明を求められる。35歳独身で現在子供がいない以上、「そんなに欲しくない」のだが、はっきり答えることは躊躇(ためら)われる。「人間として何か欠けていると思われるのが怖いから」と「自分でも、本当にそうかよくわからないから」のどちらもだ。
だから、一冊まるまる言葉を尽くして「子供を持ちたくない理由」を語る本書のいさぎよさには、驚いた。著者であり、ポッドキャスト番組を通じて同世代の支持を得てきた月岡ツキは、いわゆる「既婚子なし」の31歳。できないから諦めたのでも、ぼんやり産まずに来たのでもなく、自分は、意志として「子供を持たない」のだと宣言する。
とにかく言語化の力が高い。なんと40個以上「産まない理由」を列挙したページもある。「そもそも他人の人生を勝手にはじめていいのか?」といった哲学的内容から、「子供が生きていく世界の先行きが暗い」という現実的内容まで。説得力がある一方で、ここまで並べ立てられると、おかしみもある。この説得力とおかしみは、ここまでして説得しなければならない状況にある子なし女性たちの苦労の裏返しだ。説明責任は、マイノリティに課される負担の一つなのである。月岡の個人的な言葉を通じて「産みたくない」と思わざるを得ない社会構造だけでなく、マイノリティとしての既婚子なし女性たちの実存が炙(あぶ)り出されている。
「産まないの?」圧の主要人物としては、月岡の実母も言及されている。本書は「女は母になって子供を産み育てるもの」という固定観念を、下の世代に引き継ごうとする母たちへの抵抗であり、母たちにそのように呪いをかけてきた社会全てに対しての異議申し立てでもある。ポップな覚悟のこもった母への果たし状だ。
(飛鳥新社・1760円)
1993年生まれ。ライター・コラムニスト。働き方などをテーマに執筆。
◆もう1冊
『母が重くてたまらない 墓守娘(はかもりむすめ)の嘆き』信田さよ子著(朝日文庫)