<書評>『成田の乱 戸村一作の13年戦争』牧久 著

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成田の乱

『成田の乱』

著者
牧 久 [著]
出版社
日経BP 日本経済新聞出版
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784296121816
発売日
2025/01/21
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『成田の乱 戸村一作の13年戦争』牧久 著

◆圧政と弾圧、抵抗の記録

 昨年に成田空港の国際線を利用した外国人は、1978年の開港以来初めて2千万人を突破した。だが、要塞(ようさい)化した空港が不完全な理由や開港前からの厳戒態勢が、現在も「成田の乱」の影響下にあることを大半が知らない。

 本書は、空港建設が決定した66年から開港前後まで13年にわたり、現地で取材した著者による空港反対闘争のドキュメントだ。記者の中で最も長く「成田問題」を追った一人として、住民の頭越しに計画を強行した政界をはじめ建設推進側の動向も詳しく織り込む入魂の内容である。

 著者は強権に抗した農民と学生と労働者の闘争を「戦後最大の反乱」と位置づけ、徳川幕府の圧政と異教徒弾圧に抗した島原の乱になぞらえる。一揆を率いた天草四郎の似姿を三里塚芝山連合空港反対同盟委員長でクリスチャンの戸村一作に見る。闘争のシンボルとなった戸村を軸に成田の乱を描くのが特徴的だ。

 現在も空港内から防風林のように見える巨木の列は、成田・三里塚にあった明治以来の御料牧場の名残だ。戦後に牧場の解放で復員者や旧満州などから引き揚げ者が入植、苦心惨憺(さんたん)の末に農地を拓(ひら)いたが、空港が“着陸”して立ち退きを迫られる。戦前から古参の農民は牧場を転用する政府の不敬に怒り、宮内庁に上奏文を持参する。足尾鉱毒事件で天皇に直訴した田中正造に私淑する戸村も、古老の義挙に賛同した。成田の乱の根には、産土(うぶすな)の暮らしを守る起義の所以(ゆえん)があったのだ。

 「無抵抗の抵抗」を唱えた戸村だが、反対派と警官隊が衝突する68年の第1次成田デモ事件で重傷を負い「角材をもって闘いのシンボルとせよ」と先鋭化する。それは支援の学生や労働者の動きと軌を一にした。空港側の土地買収工作を悪魔の仕業と見た戸村は「年を追うごとにより急進的になり、より戦闘的となり、そしてより“純粋”になっていった」と著者はいう。

 闘争とは何だったのかを問い続ける本書には、戸村の墓石に刻まれた聖書の「真理はあなたに自由を与える」が響く。空港の足下を照らすプロテストの記録がここにある。

(日本経済新聞出版・2640円) 

1941年生まれ。ジャーナリスト。日経新聞の東京・社会部長などを歴任。

◆もう1冊

『三里塚 成田闘争の記憶』三留理男著(新泉社)。農民らの闘いを記録した写真集。

中日新聞 東京新聞
2025年3月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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