『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』
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【毎日書評】「働きやすい職場」では不十分?若手が辞めたくなる3つの決定的な要因
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
「離職防止コンサルタント」である『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由 』(井上洋市朗 著、秀和システム)の著者は、若手社員がなぜ辞めるのかについて実態調査を行い、新卒入社後3年以内に辞めた約300名にインタビューしてきたのだそうです。
その結果、若手社員が辞める要因は3つに集約されることがわかったのだとか。
① 存在承認の不足
② 貢献実感の不足
③ 成長予感の不足
(「はじめに なぜ若手社員が辞めていくのか?」より)
深刻化する人手不足対策として、企業は採用を強化し、労働環境整備に尽力しています。しかし、そもそも自社の若手社員が辞める理由を正しく把握できておらず、正しい対策もしていないから若手社員の定着はうまくいかないのかもしれません。
したがって定着率を上げたいなら、社員が辞める要因が上記3つのどこにあるのかを把握し、対策をするべきであるわけです。
本書を執筆したきっかけは、若手社員の離職について、定量的なデータや多くの事例を交えてお伝えすることで、若手社員が辞める理由が正しく理解され、正しい対策が広がってほしいという思いからです。
そのため本書では、インタビューでの生の声や企業研修を通じて感じた若手社員の実像や、若手社員をマネジメント・指導する立場の方々の悩みなど、生々しい情報を多くご紹介していきます。(「はじめに なぜ若手社員が辞めていくのか?」より)
きょうは第1章「若手社員の本音と実情 〜彼らが辞める「まさか」の理由」のなかから、上記「若手社員が辞める3つの要因」についての記述に注目してみたいと思います。
1. 「存在承認」ありのままの自分を認めてほしい
いうまでもなく存在承認とは、「自分の存在を承認=認めてほしい」という欲求。最近よく聞く「承認欲求」ということばに近いようにも思えますが、ことばの持つニュアンスは微妙に異なるようです。
承認欲求が満たされない状態は「認めてほしいのに認めてもらえない状態」なのに対し、存在承認の不足とは「組織の中で自分の居場所を感じられない状態」です。
承認欲求よりも、もっと基本的な、人としての存在を認めてもらえていないという状態が、存在承認の不足なのです。(42ページより)
存在承認が不足するケースの典型は、無視や放任。上司や先輩に話しかけても無視されるとか、OJT(On-the-Job Training=実務を通じた教育)担当者が仕事を教えてくれないなどがそれにあたるわけです。
著者によれば、初期教育の場面でしっかり関わってもらえなかったことで、存在承認の不足が起こるケースは少なくないそう。
採用サイトには「充実の教育制度」「OJT担当者が伴走します」といった文言があるにもかかわらず、その会社を早期離職した人にインタビューしてみれば、「とくにOJTなどはなかった」という回答が返ってくるようなこともあるというのです。(42ページより)
2. 「貢献実感」仕事の意義をきちんと示してほしい
2つ目は貢献実感の不足ですが、ここでいう貢献とは、顧客貢献、組織貢献、社会貢献など幅広い意味を含むもの。そして、顧客貢献ができていないと感じるケースの典型は、「商材に自信が持てない営業職」だといいます。たとえば大手金融機関を1年足らずで退職した方は、インタビューで次のように答えているそうです。
「投資商品はリスクもあるのに、お客さんを騙して買わせているような気がしていた。上司はとにかく売ってこいしか言わないし、自分が何のために仕事をしているのかわからなくなった」(44ページより)
他にも、求人広告の営業職だった人は「『このお客さまに対しては、求人広告よりほかの採用方法のほうがよい』とわかっていても、営業としては自社の求人広告枠を売らなければならず、苦しかった」と語っているそう。
いずれにしても、商材がお客さまのためになっているとは思えないなかでの営業活動は、貢献実感の低下を招くわけです。
加えて、社会貢献という観点での貢献実感不足も見逃せないようです。社会貢献意識の高さはZ世代の特徴でもありますが、著者がインタビューした人で「就職の軸のひとつとして、社会貢献性の高い業界に行きたかった」と回答する人は珍しくないというのです。(44ページより)
3. 「成長予感」理想のキャリアに最速で到達したい
3大要因のラストである成長予感とは、いまの職場でいまの仕事を続けることによって、“なりたい自分になれる”と思えること。逆に、いまの職場では将来が見えないとか、なりたい自分になれないと思うのだとすれば、それは成長予感が不足している状態だということです。
著者の経験上、大企業を辞めているケースでもっとも多いのが成長予感の不足。ここではその例として、都内の有名私立大学を卒業し、大手IT企業にビジネス職(文系総合職)として入社したにもかかわらず、3年で辞めたAさんのエピソードが紹介されています。
Aさんが語る“辞めた理由”は次のとおり。
「社内を見渡したときに、心の底からあこがれるとか、尊敬できると思える人がいませんでした。自分が30歳になったときになりたい姿の人がいなかったんです。部分的にはカッコイイと思える人はいたけど、30歳の自分を思い描いたときに、なりたいと思える人がいませんでした」(48ページより)
いわゆる「ロールモデル」になるような先輩がいなかったことを、退職の理由としてあげているわけです。
また、大企業に成長予感不足が多いもうひとつの原因に、成長のスピード感もあるようです。よくある「上が詰まっている」状態で若手が抜擢される機会は少なく、いまだに年功序列的な雰囲気が残っている会社も少なくないそう。
若手社員の離職対策として「若手の成長を支援する」などの項目を掲げる会社はよく見られますが、“成長のスピード感”という視点も欠かせてはいけないということなのでしょう。(47ページより)
現実的に、若手社員が辞める理由は千差万別であるだけに、対策についてもさまざまな方法が考えられるはず。そこで本書を参考にしながら若手社員についての実態を正しく知り、自社に合った対策を考えていくべきかもしれません
Source: 秀和システム