大人が“ぬいぐるみ”を持つのはなぜか? キャラクター文化研究の第一人者が語った「ぬい活」の背景

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nui nui nui! 大人だってぬいぐるみが好き!

『nui nui nui! 大人だってぬいぐるみが好き!』

著者
世界文化社 [著]
出版社
株式会社 世界文化社
ジャンル
芸術・生活/諸芸・娯楽
ISBN
9784418241477
発売日
2025/01/09
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

大人が“ぬいぐるみ”を持つのはなぜか? キャラクター文化研究の第一人者が語った「ぬい活」の背景

[文] 世界文化社


青木貞茂氏

 丸みを帯びたフォルムに、やわらかな肌触り、愛らしい表情。「ぬいぐるみ」は今、子どものみならず、大人たちをも癒し、魅了している。

 ぬいぐるみを近くに置いて一緒に過ごしたり、持ち歩いて景色を見せたり、ぬいぐるみと写真を撮る“ぬい撮り”をしたり、その愛で方はさまざまだ。ぬいぐるみの種類も驚くほど多彩である。

 そんなぬいぐるみを様々な角度から掘り下げ、一冊に詰め込んだムック本『nui nui nui! 大人だってぬいぐるみが好き!』(世界文化社)が発売中だ。同誌は、発売後に即重版が決定するなど、大きな話題を呼んでいる。

 なぜ今、ぬいぐるみなのか。現代の大人たちがぬいぐるみを求める背景には何があるのか。ぬいぐるみ人気の理由を、キャラクタービジネスやぬいぐるみによるブランディングに詳しい法政大学教授の青木貞茂教授に聞いた。

不安が多い社会で心の安定を保つ拠り所

「日本ではぬいぐるみは子どもだけのものではなく、大人が持つことに特に違和感を持たない文化があります。これは日本に古くから『アニミズム』という、あらゆるものに魂や霊が宿るという考えがあるからで、海外ではまず考えられないような文化です。江戸時代の頃から、妖怪などの絵草紙が流行っていたりと、架空のものを愛す文化が根付いており、私たちはぬいぐるみを可愛がる気持ちが芽生える環境にいるのです。ただ、高度経済成長期やバブル期など終身雇用が前提の時代には、今のようにぬいぐるみは必要とされていませんでした。景気が良く、企業が雇用を守ってくれた時代から、雇用が不安定な時代になり、リスキリングを求められるなど、不安を抱えながら自身のキャリアを作って生きていかなければならなくなっています。そんな日々のなかで自分の心の安定を保つためには、安心できるシェルターが必要。それを担うのがぬいぐるみなのです」

 硬い人形ではなく、ぬいぐるみ。ふわふわ柔らかく、丸みがあって慈しみたくなる存在です。「ぬいぐるみには動物的な愛らしさがあり、可愛いと感じるのは本能でしょう」と青木先生。

「ぬいぐるみはペットや人間のように病気をしないし、死ぬこともない。安心して愛することができるというのも、ぬいぐるみをそばに置きたくなる理由のひとつだと思います」

ぬいぐるみは自分を守る小さな守護神

 アスリートや役者などがぬいぐるみ好きを公言することも増えました。厳しい世界で活躍する一流の人たちがぬいぐるみを可愛がるのは、なんだか少し意外に感じます。

「アスリートは明日の保証がなく、戦って成果を出さなければなりません。怪我をしたら大変です。そんな過酷な状況のなかでぬいぐるみをそばに置いているのは、心を落ち着かせてくれる存在だからでしょう。一種の精神安定剤であり、一番のパートナーとも言えますね。抱きしめると安心でき、ふっと見ると目が合った気もしてくる。そんなぬいぐるみと過ごしていると、『自分のことを見守っていてくれる』と思えてくるのではないでしょうか。ぬいぐるみは人間が社会で暮らすうえで、自分を保ちながら生きていくための大きな知恵なのです」

 ぬいぐるみ歴50年という大のぬいぐるみ好きの青木先生。持っていると安心し、自分を守ってくれるぬいぐるみは「小さな守護神」のようです。

「近年特に、大人のぬいぐるみ好きが増えてきましたが、これからの時代、ぬいぐるみに癒やしを求める人はもっと増えていくと思いますね。ぬいぐるみを愛でることは、現代社会を生きる我々にとって、より一層かけがえのない支えになってくると思います」

 ***

青木貞茂(あおき・さだしげ)
法政大学社会学部メディア社会学科教授。立教大学卒業後、広告代理店に勤務。同志社大学社会学部教授などを歴任し、2013年4月より現職。日本広告学会理事。著書に『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)など。

鈴木ゆう子

世界文化社
2025年3月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

世界文化社

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