『ひのえうま』
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出生数激減! 史上最大の迷信を読み解く
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
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佐藤健太郎・評 『ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会』吉川徹[著]
日本の人口ピラミッドを見ると、一年だけ異様な凹み方をしている年がある。1966(昭和41)年生まれのひのえうま世代だ。「ひのえうま生まれの女は夫を食い殺す」などの迷信から生み控えが起こり、前年に比べて50万人近くも出生数が落ち込んだのだ。
吉川徹『ひのえうま 江戸から令和の迷信と日本社会』は、この迷信がどのように生まれ、どのような影響を及ぼしたかを読み解いた一冊。
迷信が広まるきっかけになったのは、1683年江戸に起きた火災だという。ひのえうまの年に生まれた(とされる)少女が、恋しい男に会いたい一心で放火を行い、火あぶりの刑に処されたのだ。ここから「ひのえうま生まれの女は気性が激しい」というスティグマが生まれ、江戸期に流行した川柳などを通して定着していった。そして明治のひのえうま(1906年)生まれの女性たちに起きた数々の悲劇が大きく報道されたことが、1966年の出生数激減につながったという。この生み控えがなぜかくも大きな規模になったか、著者は丁寧にデータを読み解き、意外な結論を導き出している。
60年ぶりのひのえうまとなる来年2026年には、さすがに前回のような生み控えは起こらないだろう。だが現代版の迷信というべき各種の陰謀論は、SNSの発達などによって、はるかに拡散しやすくなっている。ひのえうまの歴史から現代人が学ぶべきことは、数多くありそうに思う。