『現代民俗学入門』
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「ママチャリ」から「荒れる成人式」まで拡げた、生きた民俗学
[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)
「民俗学」と聞いて思い浮かべるもの。風習、伝承、昔話、柳田國男……言葉としては知っていても、実像をイメージするのは難しいという人も多い。
だが、「ママチャリ」に凝らされてきた創意工夫から、ネット上に寄せられる「イイ話」、はては「荒れる成人式」まで。これら全部が「民俗学」の領域だといわれたら?
本書は、「生きた学問」としての民俗学の魅力を幅広く伝えてくれる、絶好の入門書だ。新しい視点で学問をわかりやすく説き起こす「創元ビジュアル教養+α」シリーズの第一作として刊行され、豊富な図解はもちろん、ひとつの項目が見開きに収まる明快な構成、テーマに即した参考書の紹介など、初心者向けのこまやかな心遣いに満ちた設計になっている。
なによりも特筆すべきは、あくまでわたしたちの暮らしの中に潜む“なぜ?”を掘り下げていく、という本書のコンセプトの鮮やかさだろう。前述のトピックの他にも、例えば「なぜ敷居を踏んではいけないのか」「ハンコとサイン」「お土産にやどる聖なる力」といった卑近なテーマを多く取り上げる。その意味や理由を説きながら、連綿と続いてきた人の営みの豊かさを浮かびあがらせてゆくのだ。
「この本の企画をいただく前に、島村先生の『モーニングの都市民俗学』という研究論文をたまたま見つけて読む機会があり、たいへん衝撃を受けまして……。そんな身近でとっつきやすいものが学問の研究対象になることにまず驚きましたし、生活の中に息づく暗黙の共通了解から、人間の営みの本質に迫っていく、現代民俗学の面白さに興奮しました」(担当編集者)
昨年3月に発売されるやひと月で重版し、現在11刷。サブカルファンを中心に幅広い年齢層に読まれ、発行部数は3万部を超える。
「“わからない”ことは“わかる”ことよりも心に残る。合理的に割り切れない物事には、人びとの不安や期待、願望が託されているんじゃないかと。いま、民俗学の人気が高まっているのだとしたら、人が日常の中にある非合理の領域に惹かれてしまうからではないでしょうか」(同)