念校で大量の赤字やめて……校閲者が語った悩みだらけの仕事の裏側とは? 集英社、日刊現代、フリー校閲者の胸の内

対談・鼎談

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くらべて、けみして 校閲部の九重さん2

『くらべて、けみして 校閲部の九重さん2』

著者
こいし ゆうか [著]
出版社
新潮社
ジャンル
芸術・生活/コミックス・劇画
ISBN
9784103553922
発売日
2025/02/19
価格
1,320円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【こいしゆうか『くらべて、けみして 校閲部の九重さん2』刊行記念】[校閲座談会]こいしゆうか×高松恭則×勝俣翔多×佐藤瞳/校閲者たちかく語りき

[文] 新潮社


漫画家のこいしゆうかさん

 新潮社校閲部をモデルに描いた漫画『くらべて、けみして 校閲部の九重さん』の第2巻を刊行した漫画家のこいしゆうかさん。

 本作の登場人物のモデルを含む校閲者3人に、作者が聞いたのは普段表に出ない裏方の本音……。

 会社の垣根を越えて集まり、胸の内を明かしてくれたのは、集英社校閲室の高松恭則さんと日刊現代校閲部の勝俣翔多さん、そしてフリー校閲者の佐藤瞳さんだ。

 間違いを見つけ、表現と格闘する校閲者たちは、何を想い、どう仕事に向き合っているのか?

校閲者たちかく語りき

こいしゆうか(以下:こいし) 今日はみなさん集まって下さりありがとうございます。フリー校閲者の佐藤さんは、何を隠そう、差別表現と戦う回(2巻収録の12話と13話)で描いた外校(社外校閲者)の丸山さんのモデルです。モデルというか、佐藤さんそのものです(笑)。佐藤さんからお話を聞いたのはだいぶ前ですが、こんなにインパクトのある若い校閲者の方にお会いしたのは初めてだったので、びっくりして。

佐藤瞳(以下:佐藤) 漫画を拝見して、丸山さんの作画に爆笑してしまいました。私の印象とはいったい……?(笑)と思いましたが、私がお話ししたことが漫画になっていく過程も含め、とても楽しくやりとりさせて頂きました。

こいし キャラとして立たせたいと思い、佐藤さんをデフォルメして描いた結果、ああなりました(笑)。佐藤さんは内容的に危うさを感じるゲラを読んだ時に、編集者や社の校閲担当の方に手紙まで書いたというお話をされていましたよね。それをちゃんと物語として昇華させなければと思っていました。

勝俣翔多(以下:勝俣) 2巻の帯が急に社会派になっているのを見て、おっと思いました(笑)。

こいし 私も、こんなに攻めてる漫画だっけと……(笑)。この回に関しては自分の作風にはないようなシリアスな話だし、簡単には扱えないテーマなので、ネームがとにかく難しかった。でも、佐藤さんに意見を聞く度にとても解像度の高いお返事を毎回もらい、新潮社の校閲部部長からも的確なアドバイスやご意見を頂いてようやく形にできました。

佐藤 丸山さんの回は結構際どいというか、内容的にだいぶ攻めていますよね。実際、使っている言葉自体が差別表現ってわけじゃないけど、結果的に差別として作用し得る物語に対してどうするか、というのは常に難しい問題だし、校閲者として悩むことも多いんです。そういう難しい話を漫画にして頂けて、有難かったです。

こいし あの話をどうまとめるか、あの終わり方で良かったのかどうかは今でも気になる時があります。

佐藤 とてもきれいなお話にしてもらえて、カタルシスがありました。現実にはそんなにうまくいくことってなかなかなくて、一緒に戦ってくれる丹沢君みたいな社員校閲者もほとんどいないし、話をちゃんと聞いて理解してくれるような編集者もそうそういない。だから、こんな世界があればいいのにと思いながら読みました。

高松恭則(以下:高松) 佐藤さんが仰ったのと同じように、差別を告発するような意図で書かれた作品で、事実を伝えようとするあまりにそのエピソードの回収ができずに、逆に差別を促しかねないようなゲラが以前、弊社でもありました。その時は編集に伝え、結果的に著者の方がうまく修正して下さったんですね。最終的に判断するのは著者なんですけども、的確な疑問を提示することで作品の質を上げていくのが私たちの仕事だと思います。

こいし どこの出版社にも起こり得る話なんですね。

高松 はい。私は集英社に入る前は新聞社におりまして、新聞なり、本なりにずっと携わってきて思うのは、出版物は現実社会とつながっているということ。コンプライアンス云々が最近やたらと言われるようになりましたけど、抑圧されていた人たちが異議申し立てをすることが見えるようになっただけで、昔からそういう構造はあり、その事実に目を向け、常に頭に置きながら校閲するべきではないかと。

こいし そう言えばこの回を描いたとき、「新潮45」休刊のきっかけとなった記事に対して編集や校閲はどうだったのかということに、この漫画の担当編集さんが興味を持っていましたね。社内で当時の関係者にいろいろ話を聞いたみたいなのですが、記事に対する責任の所在や編集と校閲の役割についてとても考えさせられたと言っていました。

高松 作中でそれらしきセリフが少しだけ出ていますね。

新潮社 波
2025年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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