『宮脇綾子の芸術』
- 著者
- 東京ステーションギャラリー [編集]
- 出版社
- 平凡社
- ジャンル
- 芸術・生活/写真・工芸
- ISBN
- 9784582207392
- 発売日
- 2025/01/27
- 価格
- 3,300円(税込)
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『宮脇綾子の芸術 見た、切った、貼った』東京ステーションギャラリー編
[レビュアー] 金沢百枝(美術史家・多摩美術大教授)
宮脇が終戦を迎えたのは40歳のとき。やりきれない、つかれはてた気持ちで、「このままなにもせずに死んでしまってはつまらない」と思ってはじめたのが布を使っての「アプリケ」だった。戦後の困窮のなか、3人の子どもを育てながらの創作活動に、主婦としての日常に支障がでない範囲という条件を自分に課した。モチーフも材料も、身近にあるものをつかうしかない。針と糸と裂(きれ)に手が伸びた。どんな素材でも使う。珈琲(コーヒー)でよい塩梅(あんばい)に茶に染まった使い古しのネルのフィルターは鰈(かれい)の干物になって柔道着の地に並ぶ。レースの切れ端は果物を入れるガラス器に、龍紋の渡来布は白菜のくしゃっとした葉っぱへと変身する。藍の縞(しま)や井桁格子の絣(かすり)は青魚にぴったり。持ち前の観察眼とユーモアが生きる。
コラージュの一種とも言えなくもないが、美術史の文脈に回収しきれない凄(すご)みを感じるのは、尋常ならざる布への愛が満ち溢(あふ)れているからだろうか。(平凡社、3300円)