『高浜虚子』
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『高浜虚子 余は平凡が好きだ』坪内稔典著
[レビュアー] 大森静佳(歌人)
昨年生誕一五〇年を迎えた高浜虚子に、俳人で正岡子規の研究者でもある著者は同時代のライバルのような目線で挑む。名高い〈去年今年貫く棒の如きもの〉を「駄作中の駄作」と評する一方、〈昼寝する我と逆さに蠅叩(はえたたき)〉を老境の「大宇宙への挨拶」と絶賛するなど大胆さに目を瞠(みは)る。
作家としての虚子にとどまらず、俳句結社「ホトトギス」の選者としての思想や編集者としての言動を通して人間像に光を当てたところが本書の新しさ。俳句の大家になってなお、小説家として成功する夢を捨てられない虚子。次々に思いつきで行動し、子規から継いだ「ホトトギス」を混乱に陥れる虚子。思わず笑ってしまうほど人間臭い。一方、文学愛好家には有名なエピソードだが、「ホトトギス」に夏目漱石が「吾輩は猫である」を連載したことも、じつは虚子の小説や写生文への強い関心から実現した経緯がわかる。
一人称「ボク」を用いた異色の評伝で、読みやすさとユーモラスな筆致が大きな魅力。批判も含めてきわめて風通しの良い一冊で、こちらも著者や虚子と軽やかに対話しながら読める。(ミネルヴァ書房、2860円)