『価値づくりの教科書 個人・小さな会社のためのブランディング』
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【毎日書評】価値を生み出し、選ばれる!「自分らしさ」をブランドに変える戦略
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
ビジネスの本質とは、商品・サービスの価値をお金と交換すること。
そしてブランディングとは、価値を生み出し、人々に伝えていくことです。
どんな価値を生み出せばいいかがわかれば、商品・サービスはおのずとできあがります。価値が伝われば、多額の広告費をかけなくてもお客さまは集まります。そして商品・サービスを手にとってもらえるようになり、売り上げも安定していくでしょう。(「はじめに」より)
『価値づくりの教科書 個人・小さな会社のためのブランディング』(村本彩 著、総合法令出版)の著者は、ブランディングについてこう述べています
サントリーホールディングス株式会社で、ビール、チューハイ、リキュールなどのブランドを育てる仕事に携わっていた人物。独立後は「ブランドプロデューサー」として活動されているのだといいます。つまり本書には、そうした活動を通じて得たノウハウが凝縮されているわけです。
印象的なのは、あらゆる商品やサービスがあふれる現代においては、クオリティだけでは差別化できないという指摘。商品・サービスの魅力をきちんと伝えるためには「らしさ」にスポットライトを当てることが大切だというのです。
その売り手にしか提供できない、売り手らしい価値。それが、お客さまにとってお金を払う判断基準になります。
なかでも、個人や小さな会社の場合は商品・サービスと提供者の距離が近いからこそ、「自分らしさ」を活かすことがより重要になるのです。(「はじめに」より)
そこで、きょうは第1章「ビジネスに背伸びはいらない」内の「ビジネスの根本を定義する『自分らしさの条件』に焦点を当て、「自分らしさ」についてさらに考察してみたいと思います。
「自分らしさ」が価値を生む
「価値観」を損なわないこと。
「得意なこと」を活かせること。
この2つが、自然体で働くための条件=「自分らしさの条件」です。(44ページより)
これこそが「自分らしさ」の基本ですが、見逃すべきでないのは、この2つのなかに「機能価値」と「情緒価値」の原石が眠っていることだそう。それぞれについて確認してみましょう。
まず商品・サービスの機能価値は、「得意なこと」を活かして磨くことが可能。たとえば手づくりのジュエリーを製作する仕事なら、手先が器用だとより質の高い商品を提供できるわけです。
また、「人の話を聞くのが得意だから、お客さまのヒアリングを上手にできる」「ひとつのことに没頭するのが得意だから、根気強くものづくりができる」といった形でも結びつくはず。
そして商品・サービスの「情緒価値」は、自分自身の「価値観」から生み出すことが可能。情緒価値でヒットした商品の例として、ここではバルミューダのトースターが引き合いに出されています。
バルミューダの創業者である寺尾玄さんは、10代のころにスペインのベーカリーでかじったパンがあまりにもおいしく、「食べることの素晴らしさ」を体感したそうです。そして、「この感動を多くの人に伝えたい」という想いが、トースターを開発するきっかけになります。「とてもおいしいものは、どのようなところから出てくるべきか?」という問いをつくり、約2000個の案をもとにデザインを洗練させました。(45〜46ページより)
つまり「食べることは素晴らしい」「おいしいものにふさわしい演出を大事にしたい」という価値観が、「おいしいパンの感動体験を、味だけでなくデザインでも演出したい」という想いとなって商品に乗ったということ。そして、それがお客さまの共感を集まる情緒価値を生み出すことになったわけです。
ここからもわかるように、「商品・サービスにどんな想いを乗せたいか」ということの根本となるのが「価値観」なのです。
では、「価値観」と「得意なこと」を明確にするためにはどうしたらいいのでしょうか?(44ページより)
人生ヒストリーを振り返り、「価値観」を見つける
「価値観」は、自分の人生ヒストリーを徹底的に振り返ってみることで見つけることができるそうです。そこで著者が勧めているのが“人生ヒストリーの棚卸し”。これまでの人生を振り返って、心に残っているエピソードを思い出せる限り細かく書き出すべきだというのです。「こんなのビジネスにつながるのかな?」と疑問を抱きたくなるものも含め、直感で書いてみることが大切であるようです。
エピソードはいい記憶だけでなく、苦い記憶からも目を背けずにそっと書き出してください。(中略)生い立ちを素直に捉えていくことで、情報価値につながる根本的な価値観を見つめ直すことができます。(47ページより)
ただし、見つめるのがつらくて書きたくないことは、書かなくてもOK。そして次にすべきは、自分の根元にある価値観をみつけていくこと。
①いまの自分に大きな影響を与えた出来事を5つピックアップし、②その体験から感じた気持ちを思い出し、③そこから生まれた強い価値観・信念はなにかと考える――。
ある出来事と対峙したとき、「自分はなにを感じ、そこからどのような判断基準が生まれたのか」という点を突き詰めれば、「自分の根源にある価値観」を見つけ出せるわけです。(46ページより)
仕事のキャリアを振り返り、「得意なこと」を見つける
続いては、「得意なこと」を見つける手段。
① これまでやってきた仕事は?(頑張ったことは?)
② どんな成果を出した?
③ そこで身につけた力は?
(52ページより)
まず①については、できるだけ具体的に書くことが重要。②は具体的なエピソードも交えて書き出すべき。そして③のポイントは、「つまりどんなことが得意なのか?」を端的にまとめること。こうして見えてきた力を応用すれば、自分らしさを活かした機能価値へとつながっていくわけです。(52ページより)
ブランディングはビジネスの根幹に関わるもの。だからこそ、商品・サービスの開発からマーケティングの実践、ビジネスの継続方法までをわかりやすく解説した本書をぜひとも役立てたいところです。
Source: 総合法令出版