『天使は見えないから、描かない』
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【聞きたい。】島本理生さん 『天使は見えないから、描かない』 理解されない関係性つづる
[文] 産経新聞社
『天使は見えないから、描かない』を刊行した島本理生さん
「見えるものをありのままに描くこと」を掲げた写実主義の画家、ギュスターブ・クールベの言葉からタイトルを採った本書は、18歳年上の叔父と逢瀬を重ねる33歳の既婚女性の道ならぬ恋を描く。
「昔から年齢差のある男女や、社会的に理解されにくい関係性を描くことに関心があった」と明かす恋愛小説の名手は、20年以上前から叔父とめいの恋愛関係という小説の構想を温めていたという。
「最初に書いてみたときは主人公を10代にしていたこともあり、『ここに加害性がないといえるのか。恋愛とは別物になってしまうのでは』と悩んでプロットを捨ててしまった。主人公を自分で自分の人生を選択できる年齢にして初めて、こういう設定の小説を書けるようになった」
男尊女卑の父親への対抗心から弁護士になった永遠子(とわこ)は、女らしさを求めない「現代的で理想的なパートナー」の夫と結婚して3年目。しかし、幼いころから恋心を抱いていた叔父・遼一の自宅に通うようになる。実の叔父に欲情する自分を「気持ちが悪い」と自覚しつつ、弱さを見せられる唯一の相手でもある遼一との関係を続ける。
「永遠子は恋愛に溺れるタイプではなく、体面を気にする地に足の着いた女性。そういう女性が社会から認められない関係を捨てられないのなら、それを恋愛と言ってもいいのではと思った」
夫の浮気を機に結婚生活を終えた永遠子は、年下の恋人との短い交際を経て遼一との同居を始める。自分の本音と向き合うことは一番の女友達との軋轢(あつれき)を生むが、失望していた両親の意外な一面を知ることにもつながっていく。
「恋愛小説は一対一の関係性で深く掘り下げていくのが好きだったが、ここ数年で自分の考え方も変わってきた」と著者。新型コロナウイルス禍を経て、「近いだけじゃない距離感の人たち」との関わりが自身の小説を形作っていることを感じているという。
「理解し合える相手もいれば、理解はできないけれど幸せを願う相手もいる。いろんな関係性のグラデーションを書きたかった。正解や不正解ではなく、人と関係することでしか得られないものもあるのでは」(新潮社・1870円)
村嶋和樹
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【プロフィル】島本理生
しまもと・りお 小説家。昭和58年、東京都生まれ。平成15年に『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、30年に『ファーストラヴ』で直木賞を受賞。