マッカーサー夫人が「平安神宮」で記念撮影…原爆投下を回避も“アメリカ村”と化していた京都の真実

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京都占領

『京都占領』

著者
秋尾 沙戸子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784106110702
発売日
2024/12/18
価格
968円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

京都人の日常と昭和史からの声で古都の表情に新しい面が加わる

[レビュアー] 平山周吉(雑文家)


平安神宮

平山周吉・評 『京都占領 1945年の真実』秋尾沙戸子[著]

 そうだ、次に京都へ行く時は、この本を持参しよう。なんだか身体がムズムズしてきた。

『京都占領 1945年の真実』は、「一九四〇年代と現在とを往来する京都ガイド本でもある」と著者も書いている。昭和百年にうってつけの「おとなの修学旅行」必携本だ。

 焼夷弾による空襲からも、原爆投下のターゲットからも外されたために、古都のたたずまいは守られた。その幸運は、「オキュパイド・ジャパン」でも続く。

 西日本全体を統括する第六軍司令部はなぜか京都に置かれる。都大路での進駐パレードは、ジープとトラックがジャズ演奏付きで走破した。京都御所や上賀茂神社といった「聖域」をGHQから守った占領下の攻防戦を本書で知ると、京都の表情に新しい面が加わる。

 著者の秋尾沙戸子は国際派の歴史ノンフィクション作家だが、京都に移り住んで十年がたつ。京住まいゆえに拾うことができた市民の日常の声と、昭和史への関心が呼び起こす歴史からの声の双方が聴こえてくるのが本書の魅力だ。

 昭和十九年(一九四四)の花街一斉廃業のため、祇園の歌舞練場は入れ歯工場となり、都をどりは中止となった、という話を耳にする。真相はどうか。当時十六歳の舞妓さんに話を聞く。モンペ姿で日当五十銭の入れ歯作りは本当だった。それでも闇営業があり、「軍人さんや軍と取引してはる会社の方」がお得意さんだった。終戦。歌舞練場は米軍専用ダンスホールに化ける。

 乗り合わせたタクシーの運転手さんから聞くような秘話だけではない。アメリカのマッカーサー記念館で取材した時に、一枚の写真を見つけた。ジーン夫人と神職らしき日本人とのツーショットだ。その撮影場所が平安神宮だったことを発見する。

 夫君のマッカーサーはアメリカ大使館と第一生命ビルの間を単調に往復するだけだった。夫人が京都に来たのは占領一年後で、「平安神宮界隈は既にアメリカ村と化していた」。日本人はオフリミット、ここ岡崎近辺は米軍好みの建物が多く、接収され、金網が張られていた。

 米軍の兵営は岡崎と伏見に集まっていた。伏見は陸軍の第十六師団の所在地であった。小津安二郎の昭和三十六年(一九六一)の映画「小早川家の秋」は伏見が舞台だが、映画には戦争の記憶がさりげなく配置されていた。伏見に占領軍がいたと知ると、京都の風景はさらに重層化される。大挙来襲中の外国人観光客に古都を占拠させるばかりでは、もったいない。

新潮社 週刊新潮
2025年3月27日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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