『痴人の愛』
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気に入ったらば妻に貰うと云う方法が一番いい
[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介
今回のテーマは「美少女」です。
梯久美子・評 『痴人の愛』谷崎潤一郎[著]
谷崎潤一郎『痴人の愛』は、平凡な男が美少女に出会い、自分好みに育てるつもりが、その性的魅力に屈服して支配下に置かれるまでを描いている。
1924年から大阪朝日新聞で連載が始まったが、大胆な性描写のため打ち切られ、途中から雑誌「女性」に掲載。翌年に単行本化されると大ヒットした。
電気会社に勤める高給取りの会社員、譲治の手記の形で綴られたこの小説は、彼が浅草のカフェで給仕をしていたナオミを見初めるところから始まる。
このとき譲治は28歳、ナオミは数えの15歳。長年の下宿暮らしに飽きていた譲治は、ナオミを引きとって暮らしたいと考える。
〈ナオミが来てくれたらば、彼女は女中の役もしてくれ、小鳥の代りにもなってくれよう〉〈徐にその成長を見届けてから、気に入ったらば妻に貰うと云う方法が一番いい〉
この歪な欲望を、譲治はナオミの母親や兄と交渉して実現させてしまう。だが、彼女は一筋縄ではいかない女だった。女中どころか家事は一切やらず、ひたすらに浪費し、男たちと遊びまわる。やりたい放題のその言動はいっそ痛快だ。
振り回される譲治の心情は「ですます体」でつぶさに描出される。女に執着しつつも妙に客観的・分析的なところがあり、それが独特の滑稽味をかもしだす。
マゾヒズム、耽美などといった言葉で評されてきた作品だが、人間の愚かさを笑いのめす、一級のユーモア小説でもある。