「ジョブ型人事」で会社に頼れないときがくる、ふつうの会社員のキャリア・給与はどうなる?

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ジョブ型人事の道しるべ

『ジョブ型人事の道しるべ』

著者
藤井薫 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
社会科学/経営
ISBN
9784121508331
発売日
2025/02/07
価格
1,034円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【毎日書評】「ジョブ型人事」で会社に頼れないときがくる、ふつうの会社員のキャリア・給与はどうなる?

[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)

ジョブ型人事制度や職務給を導入する企業が増えています。昇進・昇格や給与が、これまでの「ヒト」基準から「仕事」基準に変わると、社員と会社との関係が大きく変化していきます。

現時点での実力勝負ですから、管理職ポジションへの若手人材の登用が進むはずです。社内公募などの「手挙げ」人事異動も増えていきます。一方で、もう、累積貢献度が考慮されて昇進・昇格したり、同じ仕事を担当していて給与が上がり続けたりということはありません。(「まえがき」より)

ジョブ型人事の道しるべ-キャリア迷子にならないために知っておくべきこと』(藤井薫 著、中公新書ラクレ)の著者が指摘しているとおり、働き方が大きく変わってきています。会社に任せておけば世話を焼いてもらえるという時代は過去のものとなり、今後はよりキャリア自立が要求されるわけです。

しかもそんなジョブ型の世界では、その仕組みを把握してキャリア形成に活かせる人と、そうでない人との差は開いていく一方であるようです。

そこで本書において著者は、「自分の会社や転職希望先で導入・検討されているのは、どのようなジョブ型なのか」「どう運用されそうなのか」を読み解き、キャリア形成につなげるための“道しるべ”を提供しようとしているのです。

特別に優秀な人は、ジョブ型であろうがなかろうが、あまり気にする必要がないかもしれませんが、大多数の「ふつうの会社員」のキャリア形成は、ジョブ型の導入によって、決して小さくはない影響を受けます。「自分はふつうの会社員だ」という自覚がある人は、ぜひ、ジョブ型の実態を理解したうえで、自分のキャリアを考えてみてください。(「まえがき」より)

さまざまな角度から、ジョブ型人事制度を読み解いた一冊。きょうは第5章「総合職(一般社員層)の給与はジョブ型で変わるのか?」のなかから、「一般社員層のジョブ型にどう対応していくか」という項目に焦点を当ててみたいと思います。

一般社員層のジョブ型にどう対応していくか

遠い将来の話はともかく、数年後、あるいは10年後の一般社員層(正社員)については、基本的に給与の状況は現状の延長線上だろうと著者は予測しています。

ほとんどの職種については、勤務先によって給与水準が大きく変わりうるということ。各社の給与水準は、各社の人事戦略上の判断だというわけです。

一方、程度の差こそあれ、各企業とも給与の職務給的要素を強めていく方向であることも事実。他者とまったく同じ水準であるかどうかは別として、自社としてはこれまでよりも仕事による給与のメリハリが大きくなっていくのでしょう。

だとすれば「ふつうの会社員」は、一般社員層のジョブ型にどう対応していけばいいのでしょうか? 対応策は3つあるようです。(129ページより)

1. 職種別の給与相場を気にする必要はない

ほとんどの職種に明確な給与相場がない現状において、全社員を職種で分類して職種別職務給を適用しようとするアプローチは、企業にとって給与制度としてのメリットが少ないため、その方式を採用する企業はあまり増えそうにありません。

やはり、自社の戦略推進上の重要性が高く、採用需給がタイトな特定の職種だけを切り出して別扱いにするかたちが主流になるでしょう。(131ページより)

その場合の職種は、IT新事業開発系、財務・投資戦略系、DX系、グローバル系のほかにはIR戦略系など、まずは少数の職種に限定されそうだといいます。

そこに各社の事業内容に応じた技術系職種が加わるようですが、いずれにしても総合職から切り出される職種はひと握り。

それ以外については、どの職種を選んだとしても、単純にそれだけで明確な金銭的損得が生じるということにはならないようです。つまり職務給やジョブ型といっても、お金の面からすれば、職種をさほど気にする必要はなし。

職種選択の機会があるなら、職種別の給与相場などに惑わされず、自分の興味や関心を重視しながら、長期的に自分の専門性の柱にできるような分野を選ぶべきだということです。(131ページより)

2. 能力主義、成果主義を意識すること

ここで著者は、職務主義、能力主義、成果主義をあらためて整理しています。

職務主義は、担当職務の責任の大きさや難易度に応じて処理するという考え方です。どの仕事を担当しているかで、処遇が決まります。ジョブ型は職務主義です。

能力主義には、保有能力と発揮能力という捉え方がありますが、昨今は、能力を持っているだけでは意味がなく、実際に発揮してこそ価値があるという考え方が主流です。職務遂行プロセスにおいて、能力を発揮できているかどうかが問われます。

成果主義は、仕事のプロセスではなく、結果に応じて処遇するという考え方です。(133ページより)

担当職務だけで等級を決める職務主義の制度であったとしても、それだけで処遇がすべてき決まるわけではありません。普通は、能力主義や成果主義の人事評価が行われて賞与が決まったりするわけです。

つまり結局のところ、能力主義や成果主義と無縁ではいられないということ。転職するにしても、“その職種でなにができるのか”“どんな成果を挙げてきたのか”が問われるのです。(132ページより)

3. 専門性にこだわること

たとえば「10年間で3部署経験する」という人事ローテーションを行う企業でも、営業、人事、事業管理というように異なる職種を次々と経験させるというケースはいまや少数派。ジェネラリストも必要ではあるものの、その育成対象になる人は次世代経営人材候補として選ばれた少数でよいということです。

ほとんどの社員については、10年間で3部署経験するにしても、たとえば、営業職という職種を軸にして担当サービスや担当市場を変えるというローテーションや、事業分野を軸にして営業、商品企画、事業管理のように担当職種を変えるローテーションが主流です。それらはいずれも、職種や事業分野という専門分野の「幅出し」のためのローテーションです。(137ページより)

職業人生を通じて長期的に通用する専門性の高さ(深さ)を求めるには、それなりの間口の広さも必要。分野を狭く絞り込みすぎることはリスクにもなりうるため、専門分野は「人事総務系」「財務経理系」「業種別の営業系」など、ある程度は大きなくくりで捉えるほうがよいようです。

そして柱になりそうなものにあたりをつけ、遅くとも30代半ば〜40歳前後には自分なりの専門分野を確立するべきだと著者は述べています。(136ページより)

ビジネスパーソンにとって、ジョブ型の実態を把握することは必要不可欠。だからこそ本書を読み込んで、新たなキャリア形成に役立てたいところです。

Source: 中公新書ラクレ

メディアジーン lifehacker
2025年3月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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