『「憲政常道」の近代日本』
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『「憲政常道」の近代日本 戦前の民主化を問う』村井良太著
[レビュアー] 清水唯一朗(政治学者・慶応大教授)
政党政治の挫折と遺産
私たちの暮らすデモクラシーは、敗戦によって新しく生まれたものではない。再建され強化され、その後の八十年間、愛(いと)おしみ育まれてきた。著者は日本の民主政治の来歴をそう説く。
もちろん復古主義の書ではない。政党政治がいかに機能して統治の制度となり、批判を受け、劣化し、途絶えたのか。この三十年の実証史学の成果を踏まえ、政治史の手法と比較の視点を用いて、その道程が丹念にたどられている。
今からちょうど百年前、世界的な潮流にも後押しされ、日本政治は藩閥政治の時代を脱し、政党内閣の時代を迎えていた。一九二五年には男子普通選挙が導入され、日本の民主政治はひとつの結実を見る。
それはこれまで拒否権プレーヤーであった政党が主体的に統治の責任を負うことを意味する。明治憲法という権力分立体制のもと、政党内閣制という困難な制度をどう育て、生かしていくのか。政党はもちろん、元老、宮中、天皇がそれぞれの考える「憲政常道」を模索した。
近代化の先達であったドイツより早く政党内閣を生みながら、権力分立体制のもとでせめぎあううちに、世界の流れは自由主義を超え、政治の大衆化へと進んでいた。昭和戦前の政党内閣はこのギャップに苦しんだ。加えて、軍だけではなく、政党の未熟さだけでもなく、時に無答責である天皇がその矩(のり)を超えた過度な主張で棹(さお)さした。民主政治は多くの経験を積みながら挫折し、回復しないまま戦争を迎えた。
戦後日本の民主政治は、戦前に存在したものが外圧によって復活され、その経験から議会を強化し、首相選定を制度化し、エリート組織に留(とど)まっていた政党が大衆化することで蘇生した。帝国は解体し、民主政治が再建された。
そこから八十年、民主政治は守られ、育まれてきた。民主政治の危機が叫ばれる今、どう向きあっていくのか。この力強い政党史には、その方法を考える鍵が数多く埋め込まれている。(NHKブックス、2310円)