『他人屋のゆうれい』王谷晶著

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他人屋のゆうれい

『他人屋のゆうれい』

著者
王谷晶 [著]
出版社
朝日新聞出版
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784022520203
発売日
2025/01/08
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『他人屋のゆうれい』王谷晶著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

 急死した伯父の住まいを訪ねると、そこはでっかい上に雰囲気が怪しげなマンションで、伯父の部屋(ご丁寧に四〇四号室)の扉には「他人屋」という看板がかかっていた。何かおかしな商売でもしていたのか。遺品の片付けは大仕事で、主人公はいろいろ訝(いぶか)りつつも住み込む羽目になる。家賃は浮くからいいかと思っていたら、何とその部屋には幽霊が付いていた……。

 本書のお話はこんなふうに始まるのだが、いわゆる事故物件もののホラーではない。むしろ人間ドラマを味わうタイプの小説だ。伯父さんのマンションの隣人たちも、一癖も二癖もあるけど怖い人たちではない。そして主人公が出会う「ゆうれい」も、また。

 半端なミステリーよりも紹介しにくい――と書いてしまうだけでも、実はちょっとあぶない。「ホラーではない」ということだけ頭に置いて、あとはどうぞ何も知らずにページをめくってください。近年の国内外のサスペンス映画やドラマで、これと似たネタを扱ったものがないわけではありませんが、それらはどれも冷え冷えとしている。本書の読み心地は貴重です。(朝日新聞出版、1980円)

読売新聞
2025年3月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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