『脂肪と人類』
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『脂肪と人類 渇望と嫌悪の歴史』イェンヌ・ダムベリ著
[レビュアー] 為末大(Deportare Partners代表/元陸上選手)
それにしても脂肪はなぜあれほどうまいのか。脂肪は背徳の味と捉えられ、うまいが、なんだか体に良くなさそうだ。ただ、近年では人間が太る栄養素は糖質で、脂肪を食べても特に太らないと言われている。
著者は北欧のフードジャーナリストで、人類がいかに脂肪を求め、嫌悪し、翻(ほん)弄(ろう)されてきたかをあらゆる角度から論じている。
中世のヨーロッパでは断食中、肉、乳製品、卵が禁止されていたが、魚と植物油は許されていた。そのルールを策定した地中海沿岸諸国は良かったが、北欧ではその制限が困難で、一説には宗教改革が支持された理由の要因にもなったとされる。さらに罪を逃れるための免罪符の中にバター符があり、買えばバターを食べることが許されたそうだ。
ところで、アスリートの体脂肪がよく話題に上がる。低ければ低いほど良いと思われがちだが、5%以下に落とした時は、すぐ風邪をひいて練習どころではなくなってしまった。腹筋はくっきり割れていて見た目は良かったが、低すぎる体脂肪は足を速くするには不都合だった。久山葉子訳。(新潮選書、2200円)