『酒を主食とする人々』
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【話題の本】『酒を主食とする人々』高野秀行著 スリリングな旅行記
[レビュアー] 産経新聞社
エチオピア南部の民族、デラシャはパルショータと呼ばれる酒を主食としており、1日に5リットルもの酒を飲むという。本書は世界各地の辺境を訪れてきた酒好きのノンフィクション作家が、その真偽を確かめるために現地を歩いた旅行記だ。
外国人富裕層向けの〝秘境〟ツアーに案内されそうになりながらも、ついに「19世紀以前のアフリカにタイムスリップした」ような村にたどり着く。しかし、プラスチック製品がない暮らしを体験して「夢が叶(かな)った」と喜んだのもつかの間。実は伝統的な生活を装うヤラセだったことが判明し、本物の酒飲み民族との邂逅を求めてさらなる旅が続く。
抜群に面白いのは、経験豊富な著者の観察眼が働く場面だ。なぜか不機嫌なホームステイ先の母親、名字がバラバラの家族…ささいな違和感を見さず、さながら探偵小説のように推理するスリリングさもある。
版元の「本の雑誌社」によると、発売前から重版がかかり、現在は3刷1万5000部。編集担当の杉江由次さんも「たった2週間の旅とは思えない読み応えがある」と絶賛する。
著者はデラシャ人の食生活が遅れているのではなく、科学では未知の領域にあるのだと説く。文明のあり方を考える好著だ。(本の雑誌社・1980円)
村嶋和樹