『図書館を建てる、図書館で暮らす』
- 著者
- 橋本 麻里 [著]/山本 貴光 [著]
- 出版社
- 新潮社
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784103559917
- 発売日
- 2024/12/18
- 価格
- 3,630円(税込)
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<書評>『図書館を建てる、図書館で暮らす 本のための家づくり』橋本麻里、山本貴光 著
[レビュアー] 南陀楼綾繁(ライター/編集者)
◆選び、並べ、可能性広げる試み
妻の橋本麻里氏は展覧会や美術館の企画にも関わる学芸プロデューサー。夫の山本貴光氏は哲学や文学などについての文章を執筆。仕事でも私生活でも本と切り離せない人生を送る2人が選んだのは、「本のための家をつくる」ことだった。
湘南に土地を求め、建築家の三井嶺氏に設計を依頼する。そうして出来上がった<森の図書館>は、中心に1日の大半を過ごす「閲覧室」があり、その周りをずらりと本棚が囲む。
この家にある多くの本棚が、九州大学で使われてきた歴史的木製什器(じゅうき)コレクションを預かったものだというのも興味深い。施主、建築家ともに歴史を受け継ぐことに自覚的なのだ。
<森の図書館>の司書を名乗る山本氏は、やってきた本を本棚に並べる際、「書棚で本と本とが『良き隣人』となる」ことを心掛けるという。また、買ってきたばかりで棚に収める前の「新着書」は、「人を読書へと誘う気配」を発しているという考えにも共感する。きちんと分類すれば、魅力的な本棚になるというわけではないのだ。
本書に収録された本棚の写真からは、2人の読書歴から生み出された「文脈」に基づいて本が並べられていることが読み取れる。その棚は脳内の知識や記憶を呼び出し、知的活動を行うための装置なのである。
<森の図書館>での生活から生まれたのが、金沢工業大学の稀覯書(きこうしょ)コレクションを基に2人が監修して各地を巡回した「『世界を変えた書物』展」だ。過去の名著を選び、並べ、見せるという行為は、本の可能性を広げる試みでもある。
2人と違って、買った本を積み上げるだけで、本棚に収めることもできない生活を送っている私は、おそらく本の可能性を十全に活(い)かせてないのだと思う。
ところで、本書には<森の図書館>をつくるのにいくらかかったのかが記されていない。自分には真似(まね)できないと諦めがつくので、ぜひ公開してほしかった。
(新潮社・3630円)
橋本麻里、1972年生まれ。学芸プロデューサー。山本貴光、1971年生まれ。文筆家、ゲーム作家。
◆もう一冊
『図書館を学問する なぜ図書館の本棚はいっぱいにならないのか』佐藤翔著(青弓社)