稲盛和夫の名著を1年間読み続け人も! 「日本語ペラペラになった外国人」を日本語教師が訪ねる

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日本語教師、外国人に日本語を学ぶ

『日本語教師、外国人に日本語を学ぶ』

著者
北村 浩子 [著]
出版社
小学館
ジャンル
語学/日本語
ISBN
9784098254873
発売日
2025/01/30
価格
1,056円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

日本語だから表現できる感情。流暢に言葉を操る9人の外国人たち

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 本書のタイトルを見たとき、まずは「おや?」と思う。本来は教える側であるはずの日本語教師が、外国人から「日本語を学ぶ」とはどういうことなのだろう。

 著者はこれまで留学生を中心に、様々な背景を持つ外国人に日本語を教えてきた。しかし、15年以上にわたる指導経験のなかで、ある時期からこんな問いが心に生じたという。

 日本語を学ぶ外国人は数えきれないほどいる。では、そのなかで日本語を自在に操り、自己を表現するレベルにまで至った人々は、どんな「景色」を見ているのだろうか――。

 著者は答えを探るため、日本に長く暮らし、今では流暢な日本語を話す9人の外国人を訪ねる。登場するのは、韓国出身の歌手、イタリア出身の翻訳者、大使館員として働くフィンランド人の女性、さらにはベナンから来た理系研究者……。「コンテキスト(文脈)の中で覚える」「音で覚える」など、彼らの日本語習得法は実に多様で、それぞれの辿ってきた道のりの違いが面白い。なかには、稲盛和夫著『生き方』を1年間かけて読み続けた、というベトナムの技能実習生のエピソードもあった。

 言語の習得について語ることは、なぜ日本に来たのか、日本語の話者となって何を実現したいのか、という夢や目標、もっと言えば人生観を語ることでもある。9人の語りにはこれまでの苦労や思い、言葉を扱えるようになっていく喜びが滲み、読んでいるとその場で話を聞いているかのような臨場感があった。

 母語では表現できないが、日本語では表現できる感情がある。言葉を使い続けて初めて作り上げられた「自分」がいる。

 言語の習得を通して、新たな思考の枠組みを得ていった人たちの経験に分け入る中で、著者があらためて触れた「日本語」の奥深さ。そのエッセンスを丁寧に見つめ、対話を文化論やコミュニケーション論にも広げていく視点に興味が尽きなかった。

新潮社 週刊新潮
2025年4月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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